見出し画像

【怖いけど怖くない怪談】#8異声

 借金を苦に首を吊って死んだ家主の霊が出ると噂の廃墟に、友人のかつやと2人で夜中に行った帰りの出来事だった。

「なんにもなかったな。幽霊どころか、嫌な臭いすらしなかったな」

「んだんだ。ありゃ眉唾だべ」

 暗い道を歩きながら、廃墟への不満をこぼしていた。

「なぁまつや、あの場所誰に聞いたんだ?」

「んー、誰だったっペかなぁ〜」

 俺様が記憶の引き出しを右端から順に開け閉めしていると、かつやのスマホが鳴った。

「あ、よしのやからだ」

 そうだ、俺様があの廃墟の話を聞いたのはよしのやからだった。なぜ忘れていたのだろうか。

「もしもし〜? うん、今まつやと帰ってるとこ。えっ! まつやにあそこ教えたのお前なの!? 何も出なかったぞ! 嘘つきめ! 死ねー! 死んで償え! あばよ!」

 そう言ってかつやはスマホをブン投げた。

「怒りすぎワロタ」

「わ゛ら゛い゛こ゛と゛し゛ゃ゛ね゛ぇ゛よ゛」

 電話を切った途端、かつやの声がおかしくなった。絶対にこいつの声とは違う、普通ではないしゃがれた声だった。

「う゛う゛っ゛! な゛ん゛た゛こ゛れ゛!」

 全ての文字に濁点がついているような、不自然な喋り方だった。

「でぇじょうぶか!? どうしたっぺよ!」

 心配して駆け寄ると、かつやが苦しみ始めた。

「ゔっ! ぐぐっ! ゔぎゃあ゛〜〜! がぁ〜〜〜!」

 苦しそうなかつやの姿を見て俺様は思い出した。あの廃墟の主人は、首を吊って死んだんだ、と。
 これは霊の仕業に違いない!

 パニックになった俺様は、とにかくかつやの背中を叩いた。

 すると、どデカい痰が出て声が治った。

「いやー助かった助かった。痰が詰まって死ぬ人もいるって聞くからなぁ。今日死ぬのかと思ったよ」

 終電を逃した俺様達は、この近くに住んでいるすきやの家に泊めてもらい、翌日帰宅した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?