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実録!! 地獄の裏バイト!!

※食事中閲覧注意
※近頃裏バイトや闇バイトが騒がれていますが、そういった「ヤバい仕事」のお話ではないのでご安心ください。去年書いた脚色アリのレポートです。
もし違法性のある闇バイト裏バイトを発見したら速やかにぶっ殺しましょう。それでは本編に参ります。


 メインの仕事の収入に波があるため、私はたまにアルバイトをするのだが、先日初めて『裏バイト』というものを体験した。
 今回はそのレポートを記していく。正直大スクープだと思う。

 先週のある日、私はあることから『裏バイト』というものの存在を知り、その求人を探し回った。

 私もバカではないので、これらの中には危険をはらんでいるものもあるということは認識していた。
 組織でいくつも同じようなページやアカウントを運営し、いろいろな所から人を集めている業者らしきものがよく目についた。

 しかし、中には明らかに個人による依頼であると分かるものがいくつかあった。
 当然個人だからといって安全とは限らず、むしろ組織化されていないほうが危険な可能性すらあったが、相手が少人数ならば私はどんな相手でも負けない自信があった。

 ということで、私は個人の中から探すことに決めた。私のいる地域で出来そうな仕事を探してみると、1つだけ見つかった。

【時給3万円☆20代男性限定】

『所要時間1〜2時間、誰にでも出来るお仕事です!』

※依頼主のプライバシー保護のため、表現を変えております。また、このレポート自体は内容ではバレようがないということで、公開許可はいただいております。

 やばい匂いがプンプンしているが、私はこの人にメールを送ることにした。

『誰にでも出来る』ということは、自動車の運転は含まれない、つまりヤバい取引の運転手などではないということだ。
 それ以外にも危険なバイトはあるが、とりあえず避けたかったものはクリアしていたので、メールを送ったのだ。

 返事はすぐに来た。住所と都合のいい日が送られてきた。向こうの都合が夜ばかりで、私が行ける最短の日はそれから数日後である昨日だった。

 仕事内容は掃除だそうだ。私はいろんな覚悟をした。わざわざ時給3万で人を募るくらいなので、普通には頼めない事情のある特殊清掃か、それとも〈なにか〉を暗に『掃除』と呼んでいるのか、とにかくただごとではないと思った。死体を見る覚悟もあった。

 そんなわけで私は昨日、手ぶらで依頼主の家に行ってきた。監禁された場合のシミュレーションも何度もして臨んだが、今こうして無事にレポートを書けているので、私の心配はしないでほしい。

 聞いていた住所にあった、ごく普通の見た目の一軒家のインターホンを押し、名前を伝えると、中から小柄で可愛らしい女性が出てきた。私より年下っぽかった。後から聞いてみたら20歳だった。大学2年生らしい。

 玄関先で少し話したが、その時点では特に変なにおいはなかった。ここで腐乱死体の線は消えたので、少しほっとした。しかし時給3万円、油断は禁物だ。

「お風呂を沸かしておきました」

 やはり特殊清掃だろうか。体に臭いが染み付くから、すぐに洗い流せということだろう。

 正直私はワクワクしていた。金が貰える上に、ここにこうして記すことができるからだ。私は小説やエッセイを書くのが好きなので、ネタになりそうなものがあると嬉しいのだ。

 それから家に上げてもらい、お茶を出された。家の中はきちんと掃除されていて、いい匂いがした。

「今日は両親帰って来ないので⋯⋯」

 耳を疑った。
 私は考えた。頭をフル回転させて考えた。

 このフレーズは『家でエッチ』する時以外のシチュエーションで出ることがあるのだろうか。⋯⋯私の記憶にはない。

 ただ、そう考えると合点がいった。20代男性限定に、誰でも出来る仕事。若い男としたかったのだろう。

 しかし、それにしては相手の容姿を気にしていなさすぎる。体型も指定されていないし、顔写真を送ったりもしていない。

 という数秒間の思考で、脳内で「もしかして違う?」という結論が出た。

「ご両親が帰って来ないというのは、どういうことですか?」

 分からない時は聞く。小学生から大人まで、全ての人の鉄則だ。

「結婚記念日なので、2人で旅行に行っています」

 それを聞きたいわけじゃない!

「ところで、僕は何をすればいいですか?」

 もうストレートに聞いてみよう。どのみちいずれ始めることだ。

「あの⋯⋯実は⋯⋯」

 顔を赤らめ、モジモジする女性。やっぱりそうなのか?
 よく考えたらこんな若い女性の家に知らない男がいる状況ってヤバいのでは? 美人局つつもたせの可能性もあるか?

「⋯⋯ある危険物の処理をお願いしたいんです」

 ファッ!?

「あの、僕はそういう資格持ってませんけど」

「あっ、大丈夫です! 資格とかは要らないんで!」

 えっ、要るよね?

「そろそろ具体的に話してくださいよ。女性1人の家に男を上げるのも不自然ですし、危険物なんて聞いてないですよ⋯⋯」

 分からなすぎる。

「それは、メールのやり取りで優しそうな人だなと思いましたし、見ず知らずの人にしか頼めないことなので⋯⋯危険物は、すみません」

 すみません、じゃないよ。

「2階の私の部屋にあるんで、行きましょうか⋯⋯」

 私は納得していないのだが。
 上に案内されたので、仕方なく付き合った。

「ここです」

 ザ・女の子の部屋という感じだった。いい匂いもするし、家具可愛いし、こんな所に本当に危険物があるのだろうか。

「そこの土鍋の下です」

 確かに土鍋がある。なんで部屋に土鍋?

 土鍋とその箱をどかすと、下から黄色い45Lのゴミ袋が出てきた。袋の角に黒い液体が溜まっている。危険な液体の入った袋の上に土鍋って⋯⋯

「これはいったい⋯⋯」

 まさにコーヒーの色だったので、怖かった。

「⋯⋯実は、あの、これ⋯⋯」

 ずっとこんな感じだけど、マジでなんなの? 悪い人じゃなさそうだからなんとかここにいるけど、本当は逃げ出したいよ?

「おしっこ⋯⋯なんです」

「えっ!? 黒すぎない!?」

 つい口に出てしまった。

「きゃっ、恥ずかしい!」

 てことは、この人のおしっこってこと? とんでもない量あるぞ。45Lのゴミ袋にパンパンに入ってるぞ。

「これを捨ててこればいいんですか? 今日ってゴミの日ですか? あ、明日の朝だから、今のうちにこっそり出してくる感じですか?」

「いや、出せないんです⋯⋯」

 ?

「重くて運べないってことじゃないんですか?」

 力がいるから男限定だったのだろう。そう思っていた。

「おしっこ捨てたら捕まるんです」

 そんなバカな。

 私はその場で調べた。すると、おしっこを捨てた男性が捕まったという記事が見つかった。しかも120g。そんだけで捕まるのか。これどう見ても20kg以上あるぞ。

「⋯⋯これ、本当におしっこですか? 黒すぎるんですけど。開けた瞬間に毒ガスが出てきて死ぬとかないですよね?」

「間違いなくおしっこです、1年くらい前の⋯⋯まさかここまで黒くなっているとは思いませんでした」

 おしっこって1年放置するとこんな色になるのか。臭いヤバそうだけど、大丈夫か?

「そこでお願いなのですが、これを全部トイレに流してほしいんです」

 なるほど、これが依頼の内容か。
 見たところ、黄色い袋の中にさらに同じ黄色い袋がある。何重にもして縛ったのだろう。漏れてるけど。

「分かりました。ところで、こんなに溜め込んだ理由を聞かせてもらってもいいですか?」

「どうしてもですか?」

「いや、まあ興味本位です」

 普通に階段を上って案内してくれたし、足が悪そうには見えない。1階にあるトイレに行かずに2階でおしっこをして溜め込む理由。めちゃくちゃ気になる。ミステリーの匂いがする。

「めんどくさかったんです」

「えっ」

「ただ、めんどくさかったんです。それだけです」

 私も自他ともに認めるめんどくさがり屋なのだが、さすがにこれは意味が分からなかった。

「1階まで行くのがめんどくさくて」

 百歩譲ってそうだったとして、他のタイミングで1階に下りる時に、ついでに持っていって捨てようとは思わなかったのだろうか。

「めんどくさくてめんどくさくて溜め込んだ結果、もっとめんどくさいことになっちゃいました」

 だよな。時給3万で人まで雇って。すげーな、自分よりめんどくさがり屋な人間初めて見たよ。だいぶ格上だし。世の中広いなぁ。

「で、こぼれても良いようにお風呂でやってください」

 そういうことか!

「この中におしっこの入った小さなビニール袋が無数に入ってるんで、それを1個ずつ開封して捨ててほしいんです」

 1個ずつ!?

「おっきなゴミ箱を用意してあるので、それに入れてください」

 いろいろ説明を聞いて、手袋とカッターと大量のゴミ袋を貰って、準備をした。

 まずあのゴミ袋を1階の風呂場まで運ぶのが大変そうだな⋯⋯

 といってもお金は欲しいので、私は頑張った。それに、ヤバい仕事じゃなかっただけ幾分かマシだった。

 袋を持ち上げてみると、私が片手で持てるギリギリくらいの重さだということが分かった。恐らく30kg近くある。

 そして、黒い液体が1番外側にある事にも気がついた。もしかしたら、すでに漏れているのでは⋯⋯

 そう思って恐る恐る袋を上げてみると、下は綺麗な床だった。ホッとした。

 けっこう急で狭い階段だったので、バランスを崩さないように片手で袋を持って、片手で捕まりながら下りた。

 階段の下のところで一旦休憩をした。握力が0になったからだ。数十秒だけ休憩してまた持ち上げると、下には小さな黒い水溜まりが出来ていた。

「ひいっ!」

 咄嗟に私が声を上げると、居間でくつろいでいた女性(以降Sさんとする。由来はしっこ)が飛んできた。

「あーっ!」

 水溜まりを指さして大声で私を責めるSさん。

「ティッシュ持ってきといてください」

 そう言って私は風呂場へ向かった。ぽたぽたと黒しっこを垂らしながら⋯⋯
 こういうのって便利屋には頼めないのかな? やっぱヤバすぎるから完全に知らない人で、2度と会わないような人にしか頼みたくないのかな。

 そんなことを思いながら風呂場のタイルの上に到着。ゆっくり下ろした。爆弾だからね。

 Sさんに持ってきてもらったティッシュを一気に10枚以上とり、床と階段を拭いた。1滴で人1人殺せそうな刺激臭を放っていた。
 この時、私は後悔した。やはり裏バイトとというものは私のような人間が関わっていいものではなかったのだ、と。

「バスタオルここにいっぱい置いておきますんで、終わったら全身洗って出てきてくださいね」

 Sさんは私にそう言うと、また居間に戻っていった。

 脱いだ服を洗濯機に置いてあったバスタオルの下に置き、手袋をして、風呂場に入った。
 私はさっそく湯船に入り、温まった。こんな季節にただ裸でやってたら死んじゃうからね。

 しばらく浸かって温まったので、仕事に入る。立ち膝になってタイルの方を向き、まずは1番外側の袋を開封した。結び目が緩かったので簡単にほどけた。

 マスクをしていたが、いきなり鼻が死んでしまった。顔を背けたくなるほどの刺激臭、その中に少しだけ魚醤のような生臭さを感じた。

 最初は「おしっこくらい自分でやればええやん」と思っていたが、この臭いを嗅いだ瞬間「こんなの絶対嫌だよな」になった。そりゃ大金も出すわ。

 底に溜まった漆黒しっこくのしっこをまず出したい。どうすればいいんだ。クソ重いから持ち上げて流すのも無理そうだしなぁ。
 少し考えた結果、さっそく新しい袋を使うことにした。中の袋を新しい袋に移し、古い袋に漆黒だけを残すという作戦だ。

 なんと、中には45Lの袋が2つ入っていた。だからこんなに重かったのか。どうせなら1個ずつに分けてくれれば良かったのに。

 私は漆黒のしたたる袋を2つとも新袋しんぶくろに移し、旧袋ふるいほうのふくろを持ち上げた。重さは2kgくらいだった。
 黒い。完っ全に黒い。コーヒーより黒い。以前小説で『しっコーヒー』というしっこを黒くしたコーヒーを書いたことがあるのを思い出した。まさか本当に遭遇することになるとは。予言者か?

 10億円当たりました!!!!!!!

 書いておけばいつか実現するかもしれないので書いておいた。出来れば来月くらいにお願いします。

 しっコーヒーをゴミ箱に流し入れる。ゴミ箱は黒なので、中に入るとさらに黒くなった。なんか面白い。そんなことを思っていると、跳ねたしっコーヒーが目に入った。激痛が走った。

 ウギャース!

 ヤバ、ヤバス⋯⋯

 そう言いながら左目を閉じて必死にシャワーを探した。お湯全開にして目に当てると、また叫んでしまった。眼球にシャワーを当てたことがなかったので知らなかったが、とんでもなく痛い。というか違和感がすごい。

 すぐに洗い流したので何とか助かったが、恐らくもろに浴びていたら失明していた。それくらい痛かった。

 気を取り直して作業を進める。ゴミ箱はけっこう大きめなので、まだまだ入りそうだった。

 また新しい袋を開けて、そこにしっコーヒーが入っていた袋を押し込み、脱衣所に置いた。
 そしてまたまた新しい袋を拡げ、ゴミ箱の横に置いた。

 ここで私は、自分は手袋が心底嫌いだったということを思い出した。手袋をつけて動かすとくすぐったいのだ。それに細かいことをやりにくいので、外して進めることにした。

 2つの袋はどちらも同じくらいの大きさだったので、ゴミ箱に近い位置にあるほうの袋から始めることにした。
 カッターナイフで袋を切っていく。あまり強くやると中のおしっこが爆発してしまうかもしれないので、1枚1枚丁寧に切るつもりでやった。

 袋は二重になっていた。トータルで三重だったということだ。ビニール袋も入れると四重だ。それでも漏れてしまうんだな。

 内側の袋にも同様にカッターナイフの先を入れ、手で裂いてゆく。すると、強烈な悪臭が立ち込めた。今思い出しても心臓が痛くなるような臭いだ。

 分かってたけど、びっちゃびちゃだ⋯⋯
 しっコーヒーの海にしっこの入ったビニール袋がたくさん沈んでいる感じだ。泣きそうになった。でもここまで来て引き返す訳にもいかないので、私は頑張った。

『頑張った』というと適当な言い方に聞こえるかもしれないが、もう『頑張った』以外で表現出来ないくらい頑張っていたので許してほしい。根性ついたと思う。

 しっコーヒーの海からビニール袋を拾い上げる。500mlくらいたっぷり入っている。思っていたより黒くない。というか濃いめの紅茶くらいだ。酸化の具合もまばらなのだろうか。
 この袋はどこからも漏れていないので、これはカッターで切らなければならない。

 ゴミ箱の中で、カッターを使ってプツンと穴を開け、そこに指を入れて拡げていく。『ジャァー』と音を立てて溜まるしっこ。

 抜け殻になった袋を拡げてあった新しい袋に捨て、次のビニールに手をかける。

 ん、これは⋯⋯!

 すでに抜け殻になっていた。衝撃で破れたのか、しっこの成分で穴が空いたのかは分からないが、嬉しかった。これ、『アタリ』です。
 黒ければ黒いほどハズレで、中身が入っておらずそのまま捨てられるものはアタリだ。

 泣きたい。何がアタリだよ。腐ったしっこに沈んでたビニールの残骸がアタリって、どんな環境だよ。

 子どもが泣く時、よく口角を下げて『へ』の字のような口(コロッケがやる美川憲一みたいな)になるが、この時の私はそれとまったく同じ口をしていた。
 泣きそうだからという訳ではない。この臭いを嗅ぐと人間はこの口になるのだ。筋肉痛なうだよ。ここが筋肉痛になったのなんて生まれて初めてだよ。

 風呂といえど下はカチカチなので(下ネタみたいになってしまったが、風呂の底の材質が硬いと言いたかった)、立ち膝がつらくなってきた。一旦普通の向きになって1回浸かり、私は立ち上がった。腰を曲げて作業をするのだ。

 カッター片手に次々とこなしていく私。6個目くらいでカッターが邪魔なことに気がついた。刺したあといちいち置かなきゃいけないし、もし指を切ったりしたらすぐに傷口に1年もののしっこが入り込むことになる。
 そう思った私はカッターなしでやることにした。結局装備0である。

 海からビニールしっこを拾い上げ、爪で破って流していく。うん、こっちのほうが楽だ。爪は後で死ぬほど洗おう。

 気がつくと、ゴミ箱の7分目くらいまで溜まっていた。重いけどなんとか持てるくらい。これをトイレに⋯⋯ん? 私、1回1回体拭いて服着てトイレに流しに行くの? 何回で終わるんだ? これ。

 よし、Sさんに手伝ってもらおう。
 私は呼び出しボタンを押した。

「はーい! ⋯⋯くっさ!」

 脱衣所に入った瞬間に『くっさ!』と言い放つSさん。空気がこもらないように風呂場のドアを開けていたので臭ったのだろう。

「えっ!? パイパンなんですか!?」

 Sさんが遠目から私のあそこを見て言った。そういえば私裸だったんだった。

「びっくりし過ぎでしょ。絶対ツルツルの方が人生豊かになりますよ」

 絶対にだ。

「豊か、ですか⋯⋯」

「キャー! とか言わないんですか?」

「もしかしたら男性の体を見られるかなって期待もあったので」

 普通にすごいこと言うようになって来たな。熟成しっこを打ち明けたらもう怖いものなしってか。
 だから20代限定だったのかな。未成年はダメで、おっさんもダメってことなのかな。

 親が旅行でいない女子大生の家に来て、裸でその子のおしっこ触って、その子に裸見られて、って書くとめっちゃエッチな話みたいになるけど、この現実とのギャップがすっっっごいな。地獄だぞ。

「これ、流してきてください」

 私はゴミ箱を指さして言った。

「えっ、自分でやってくださいよ」

「どうやって?」

 ていうか、『自分で』ってなに? あなたのおしっこでしょ?

「廊下濡らしてもいいんで、自分でやってください。それでは!」

 そう言ってSさんは去っていった。

 風邪引くやんけ⋯⋯

 私は仕方なくシャワーで手を死ぬほど洗い、びしょ濡れのままゴミ箱を持ってトイレに向かった。階段の横にあったのでそんなに遠くなかったが、足が滑るので気が気でなかった。この日ほど『ユニットバスだったらよかったのに』と思った日はなかった。

 トイレの蓋を開けて、ゴミ箱の中身を一気に流し込んだ。便器の中が真っ黒になった。こころしか水位が下がった気がした。
 ゴミ箱の中を見てみると、白いかすのようなものが残っていた。これを見た瞬間吐きそうになった。
 しっこの刺激臭では吐き気を催さなかったのだが、見た目がアウトなものはダメだ。気持ち悪すぎる。なんなんだこの滓は。

 私は風呂場に戻り、ゴミ箱の中をシャワーで洗い流した。温かいシャワーに触れたことで、一気に臭いがムワッと来た。けど黒しっこの原液よりは余裕でマシだった。

 それからまたしばらく立って作業をしていたのだが、背中が徐々に寒くなってきたのと、腰が疲れてきたのでまた立ち膝に戻った。立ち膝は立ち膝でつらいけれど、しばらくならやれそうな気がした。

 汗が出てきた。膝に重心をかけないようにいろんな筋肉を使って体勢を保って立ち膝をしていたため、なかなかハードだったのだ。それに、風呂ということもあって温度も高い。

 汗が目に入るので拭きたかったが、手から腕までしっこまみれだったので、しばらくはそのまま続けた。
 しかしある時限界が来て、シャワーで手を洗った。手には白い滓がたくさんついていた。キモかった。
 洗い終わってさっそく目をぬぐおうと思ったが、まだ抵抗があったので風呂場にあったボディーソープで手を洗ってから目を拭った。

 2杯目が完成したので、またトイレに流しに行く。1回目で濡らしていたせいもあってさっきよりも滑ったが、転んだら一巻の終わりなので、慎重に、しんちょ〜に運んだ。
 向こうに見える襖の隙間からSさんがこちらを覗いていた。正直ムカついた。

 3杯目が完成した頃に疲れがピークに達した。息もうまく出来なくなっていた。喉もかわいた。水が欲しかったので、呼び出しボタンでSさんを呼んだ。

 しばらく待っても来ない。

 また押してみる。

 来ない。

「Sさーん! 助けてぇー!」

 叫ぶと、タタタタッと大急ぎで走ってくる足音が聞こえた。

「大丈夫ですかSさん!(私は七宝しっぽなので、そのS)」

 心配そうな顔で私を見つめるSさん。

「水ください⋯⋯」

「すぐ持ってきます!」

 良かった。助かった。それにしても、なんで呼び出しボタンで来てくれなかったんだろう。壊れてるのかな。もしそうなら直さないとヤバいぞ。人が死ぬぞ。

「お待たせしました、どうぞ!」

 Sさんは私にキンキンに冷えたペットボトルの水をくれた。うまい。うますぎる。

「Sさん、もしかして呼び出しボタンって壊れてます?」

「壊れてませんよ」

「なんで来てくれなかったんですか?」

「また手伝えって言われるのかと思ったので⋯⋯すみません」

 なるほど。

 私はその後も作業を続けた。まさかの1袋でゴミ箱4杯。単純計算で計8杯だぞ。体持つかな⋯⋯

 1袋目の海をゴミ箱に流し入れ、次の袋に移った。1袋目の海底には少量のティッシュらしき物体が沈んでいた。恐らくさっきの滓の正体はこれだろう。

 次の袋はなぜか硬い部分があった。
 こちらも二重になっていた。久しぶりにカッターを使って開けてみると、いつも通りの激臭だった。目にしみるとかは一切なかった。

 こちらの袋にはティッシュがものすごく入っていた。真っ茶色で冷たくてブヨブヨの感触のティッシュ⋯⋯思い出すだけであの口になる。
 1個ずつ丁寧に新袋に移した。

 紐が入っていた。なんだろう、と思ってずるずると引っ張ってみると、iPhoneの充電器だということが分かった。これ、2000円くらいするぞ? 壊れてたから捨てたのかな?
 引くほど真っ茶色だった。白だからよく染みるのかな。

 次に、iTunesカードが出てきた。見て分かるくらいには面影が残っていたが、これも真っ茶色だった。うんこに埋まってたって言われても納得するくらいの色だった。まぁ臭い嗅いだら一瞬で分かるんだけどね。

 次にドラえもんのコンビニに置いてある、色んな話を集めたやつみたいな本が出てきた。私はドラえもんが好きなので「Sさんもなんだなぁ」と少し嬉しくなったが、よく考えたらこんなしっこまみれにしてるんだからそんなに好きじゃないんだろうな、死ね、と思った。

 次に、コンドームが出てきた。これは最終的に4つ出てきた。彼氏かフレンドか分からないが、Sさんがこんなにもしっこを溜めていると知ったらどんな反応をするだろうか。

 次に、コンドームの箱が出てきた。ぺっちゃんこだった。0.04と書いてあった。

 やっと不純物が取れたので袋を持ってみると、だいぶ軽くなっていた。めちゃくちゃ嬉しかった。袋を破いて流す作業をせずにかさを減らすことが出来たからだ。
 でもよく考えたらしっこまみれのゴミを触るのもなかなかのものだったし、これからが鬼門だ、と思った。さっきの袋ほどではないが、こちらにもビニール袋がいくつか沈んでいるからだ。

 それから立ったり立ち膝になったりを繰り返しながら、私は無事全てを成し遂げた。風呂場でビショビショになった袋たちをさらに新しい袋に入れ、縛り、しっこを完全に封じ込めた!

 ゴミ箱は予想通り8杯だった。寒かった。

 私はゴミ箱を綺麗に洗って脱衣所に出し、風呂場掃除を始めた。湯船はしっこ飛沫しぶきが大量に入っていたのですぐに栓を抜いて落とした。

 洗剤を風呂中に撒き、ブラシでゴシゴシと擦る。濡れた裸で立っていたので寒かったが、換気のために窓はちゃんと開け続けていた。オレンジの匂いがすごかった。
 全ての泡を流し、遂に自分洗いタイムがやってきた。

 泣きそうだった。「ぬおおおおおお」と何度も雄叫おたけびを上げながら洗った。頭を4回洗い、顔を3回洗い、体を3回洗い、肘から先を数え切れないくらい洗った。

 さっぱりして風呂を出て、大量に置いてあったバスタオルを手に取った。蜘蛛の死骸がくっついていた。

「キェエエエエエ!!!」

 叫んでタオルを放り投げると、またSさんが走ってきた。

「大丈夫ですか!」

「タオルに蜘蛛ついてたんだけど!」

「ごめんなさい、うちのお母さんが⋯⋯」

 お母さんのせいにすんな!

「あっ! すごーい! 全部終わったんですね! ありがとうございます!」

 やはり人に感謝されるのはいいものだ。それまでの苦労が一気に報われる気がするからだ。しかも今日はお金もたんまりと貰える。

 その後2人で他のゴミと一緒にゴミ出しに行って、2人で居間でお茶を飲んだ。

「たまに夜ゴミ出してないかチェックしてくるおばさんがいるんですけど、今日はいなかったのでよかったです」

「まぁ、ダメだもんね」

「朝忙しくて出来ない人だっているんですから、そういう人にも配慮してほしいですよね」

「5分早く起きなよ」

「おかわり要ります?」

「いや、そろそろ帰るよ」

 そんな会話の後、報酬受け取りタイムが訪れた。
 5時間くらいに感じていたが、実際は1時間10分くらいしか経っていなかったそうで、4万円だった。本当は35000円だが、頑張ってくれたのでオマケです、ということで4万になったのだ。

 それでさよならして家に帰ったのだが、帰り道で鼻が苦しいことに気がついた。息をしようと意識しないと鼻で息が出来なくなっていたのだ。鼻の奥に微かにアンモニアがいるような気もした。

 このレポートを書いている今でも後遺症は残っている。早く治りますよーに。おしまい。


 あとで確認したらSさんのアカウントが消えていた。この為だけに作ったのだろう。すごい世界だった。

 書き忘れてましたが、暑かったので早い段階でマスクを外しました。

 あと、もう半年くらい経ってるんで鼻完治してます。

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