「4月になれば彼女は」 川村元気
何年か前に読んだ本。4月に映画を観て、再び読み返してみた。「億男」を読んでから一通り読み通した作家。完全な答えのない、悩みに共感する。
突然届いた昔の恋人からの、旅先から届いた手紙で始まる。医学部3年の写真部 副部長 藤代俊(フジ)と文学部の新入生の新入部員 伊予田春(ハル)。二人は出会い、恋に落ち、写真部のOB大島さんの片思いが絡みついて、永遠だと信じた恋は遠い昔に突然に終わった。
現在は精神科医の大学病院勤務医となったハルは、獣医の弥生と同棲しながら結婚式の準備を進めている。式場を下見して、招待状を用意して・・・
弥生とは病院で知り合い、弥生が結婚式をドタキャンして付き合いが深まり同棲したのだが、今では別々の寝室で仲の良い同居人という関係。流れに身を任せ結婚を決めた。1年後の結婚式に向けて、4月からの12章が語られる。
旅先のハルから届く手紙は、ウユニの天空の鏡、プラハの大きな時計、アイスランドの黒い砂の海。思い出を綴る目的は?戸惑いながら忘れていた恋心が胸を再び熱くする。
ハルの写真部の友人ペンタックス、弥生の妹の純、ハルの後輩医師の奈々、ハルが友人のホームパーティーで出会った友人のタスク。
愛とは、幸せとは。見えないもの、移ろうもの。ハルからの手紙が届く中で、弥生が姿を消す。それから、彼女からのエアメールが届く。ハルの手紙で、かつてお互いに触れ合えた愛情、幸せだという気持ちに気付いた。失ったものを取り戻すために姿を消したと。
フジは、ペンタックスからハルの死を知らされ、海辺の病院で、フィルムの入った遺品のカメラを受け取る。最期にかつてフジを愛した自分を見つける旅に出たハル。目に見えないものを求めてシャッターを切り続けたハル。雲に隠れた朝日に向けたカメラ。
カーニャクマリの朝日。ふたりが見逃した光景。またいつか、いつでも手に入ると思った風景。
待つのではなく、愛を、愛のカケラを取り戻すために再び朝日を求めて。四月、弥生を取り戻すために。
小説には、風景という映像、音楽による音響が目を瞑ると溢れ出す。「四月なれば彼女は」サイモン&ガーファンクルを久しぶりに聴いてみた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?