【短編小説】マスク-02
今日は久しぶりにお弁当を作った。
たいてい毎日一緒にお昼に出かけるY先輩は、私が今日はお弁当だからと断ると、意外そうな顔をした。
そして「お弁当つくってえらいね」と褒めてくれた。
ありがとうございます、と言いながら、マスクの下の笑顔は少しこわばってしまった。なんとなく後ろめたかった。
めずらしくお弁当を作った理由はただ一つ。
先輩と一緒にお昼に出かけたくなかったから。
マスクを人前で取りたくなかったから。
今日、私は、これまで選んだことのない色の口紅をつけて出社した。
マスクがなかったら絶対にできない芸当だ。
家を出てからずっと、マスクで口元は完全に隠れているのに、ドキドキそわそわした。
電車の窓に映る自分の顔を見ながら、今の心情は“トレンチコートの下は裸”という状態に近いのではないかと思った。
お昼ごはんのあとの歯磨きは、誰もトイレにいないことを確認して手早く。
最後に取れてしまった口紅を塗りなおしているときに、あれ?と手を止めた。
この色、案外似合ってる?
鏡に映る顔を右に左に向けてみる。やっぱり案外いい感じなのでは……?
今度、休日につけて出かけてみようかと思い立つ。食事のとき以外はマスクが隠してくれる。
こんな気づきも冒険も、きっとマスクがなかったらできなかった。
マスク生活も悪いことばかりではない。
サポートいただけたら、もれなく私が(うれしすぎて浮かれて)挙動不審になります!よろしくお願い致します!