軽めの恋

 彼女は珍しく怒っていた。彼女と付き合ってから半年が経っていた。同じ大学の同級生で、同じ学部で授業が一緒だったから。趣味や好きになるものが一緒だったから、お互いに引かれあうものがあって付き合うことができた。人間、これだけで付き合えてしまうから不思議だ。
 なぜ彼女から怒られているのか。原因は二つあった。一つは自分が他の女子を好きになったから。まあ怒られて当然だろう。もう一つは別の原因があった。
「どうして私のこと放っておいたのよ!」
「どうしてって言われても」
本当は僕だって怒りたかった。しかし、彼女の言い分に押し負けていたのだ。
「なんで私が浮気できる環境にしちゃったの?ちゃんと引き留めてくれないとダメじゃん!」
彼女もまた別の男子に浮気をしていた。にも関わらず、浮気をさせてしまう僕が悪いと言い出したのだ。
「そっちだって浮気してるのに、何で俺だけ悪いみたいになってんだよ。おかしくない?」
「はあ?別の女の子に手を出してるくせに何言ってんの」
「この期に及んで逆ギレするわけ?あり得ないんだけど」
あまりにも不毛な議論。人混みの多いカフェでこんな会話するなんて思いもしなかった。
「別れよう、もう無理でしょ」
「うん、そうしよ。私だってもう付き合いきれない」

 こうして僕たちはあっさりと別れた。半年間の出来事は全て帳消し。なぜ好きだったのかさえなんかもう忘れてしまったし、自分が費やした時間とお金を返してほしいとさえ思えてきた。自分が失恋をしてこんなに未練がないのは初めてだった。これで心置きなく新しい女の子のことを好きになれる。そうだ、前向きに考えていこう。自分はもう自由に恋愛をしていいんだ。明日はその子と講義が一緒だし、講義終わりはお昼に誘おう。誰かを好きになることは楽しい。いろんなことがポンポン頭の中で思いつくし、自分が相手に尽くしているような、自分をアピールできることが生きがいのように感じていられる。
「楽しい人生だ」
心からそう思えた。自分が恋愛に積極的な男で本当に良かった。実際、こういう生き方のほうが得をするし、気持ちがいい。
「ちょっといい?」
その場からいなくなったと思っていた彼女がやってきた。
「なに?」
「軽いんだね」
「なにが?」
「わからない?全部だよ、全部。まあいいや、もう私には関係ないし。じゃあね」

彼女の言葉の意味に気づくのは、まだ先の話しのことだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?