見出し画像

あの三月


桜を探して歩いた日の翌日は、
真冬の寒さで、冷たい雨が降った。

そんな日が春には必ずあって、
あの三月を思い出す。


高校三年生の三月、

受験に失敗して、リベンジが許されず、
人生、すべて終わった気持ちで、

とりあえず春からの居場所を作るために、
ダイレクトメールが来ていた専門学校に、
願書を出したあの三月。

社会福祉学科を受験してたのに、
なりゆきで情報処理科を選んだあの三月。

全部、ムダだったあの三月。

未来への志も、
受験にかけた費用も。


あの三月、
父が出張に誘ってくれて、
いっしょに日帰りで長野へ行った。

特急あさま号でコーヒーを飲んで、
善光寺の近くでおそばを食べた。

鳩のえさを持たされて、
群れに襲われたりもした。

父とどんな話しをしたのか、
よく覚えてないけど、

なりゆきの情報処理科は、
きっと将来的に有利になるよ、
みたいなことは言ってたと思う。


父が仕事をしているあいだは、
ひとりで街を歩いた。

幼稚園の頃に少しだけ住んでいた場所を
見に行ってみたりした。

ぐるぐる考えながら、
知ってるようで知らない街を歩いて、

もうなるようにしかならないんだと、
腹をくくった、あの三月。


結局、情報処理科で学んだことは、
就職後にたいして活かせず、

大学はあきらめきれなくて、
社会人になってから入学したんだけどね。

片手間で学士の単位を取り切るまで、
十年以上かかっちゃったんだけどね。


いまこのとき、
受験失敗して、人生終わった気持ちで、

この三月を経験している18歳がいるよね。

そんな誰かに、
よりそってくれる大人がいますように。


この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,315件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?