【小説】 渡し舟〔3〕(あらすじ有)
《第三の世界に紛れ込み、謎の島に辿り着いた僕は、川を目指し森の中に入っていく。動物の鳴き声は聞こえたが、人間は誰もいないと思っていた。しかし赤いビニール袋を見つける。》
それから僕はその場に立ち尽くした。水が土から染み出すように生気を感じる。乾き切ってぼやけるコンクリートに草露を垂らしたようだった。人間はこうも独りではないと分かれば、心の在り方が変わるのだと認めざるを得なかった。そして、その見たことのない赤いビニール袋の色に胸が騒ぐのであった。この胸騒ぎは感じたことがある。しかし、いつだったかは思い出せない。遥か昔のような、記憶に食い込んだ感覚であった。赤い実を頬張るところまで想像していた僕には残酷な出来事だった。心に深く刻まれた痛みは永遠に消えない。それが些細なことであっても。そうやって数知れず傷つけてきた報いだろうか、今ここという現実の痛みは耐え難かった。
そうして、胸が締めつけられ苦しく、息が浅くなる僕を嘲笑うかのように赤いビニールは揺れている。裂けかけたそれはまるで傷口のようだった。しかしふと気づく。そのビニールが腐食していない。これはフェイクではないかもしれない。だが誰かが仕掛けた罠なのかもしれない。混乱し、頭は暑苦しいぐらいにぐるぐると回っていた。そこで彼は意を決し、手に取ってみることにした。グロテスクな傷口に手を突っ込み剥ぎ取るように、木にへばり付いた赤いビニール袋をつかみ取る。すると手に赤い何かがついた。それが何かわからず、眉をひそめて自分の手に見入った。気持ち悪くなり手を離すと、手が真っ赤に染まっている。予想外の衝撃に卒倒しそうになった。
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