【読書探訪】女性たちの独ソ戦の記憶。 『戦争は女の顔をしていない / スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ』
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2022年のいま、私たちはロシアによるウクライナ侵略が現実となった世界を生きている。
高度に情報化された昨今、戦争の様子は逐一報道される。SNSでは市民や実際に兵士として戦う人が発信する動画を通して、現地の生の声をリアルタイムで聞くことができる。
ただ果たしてそれが戦争の“すべて”だろうか。目をそむけてる事実や聞こえないようにしている声はないだろうか。
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1941年から1945年にかけて、凄惨な独ソ戦が行われた。その被害は甚大で死者数についても正確な人数はわからないとされる。ただ目安としては、現状の世界の認識としては下記のようになっている。
第二次世界大戦で最大の死者数を出した戦場である独ソ戦は、地続きのユーラシア大陸西方にて行われた。総動員が発令され、開戦に及び多くの市民が徴兵され正規兵に加わった。被占領下の土地では市民がパルチザンとして戦った。
本書は女性ジャーナリストのスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる、第二次世界大戦のソ連を生きた女性たちへのインタビュー録である。
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大量のインタビューはおおむね女性たちの語り口のまま記載されている。
ソ連は彼女たちを医療、炊事、兵站だけでなく例えば狙撃兵や戦車部隊など、実際に戦闘に参加する兵士としても参戦させた。
残酷な記憶の数々に加えて、細やかで愛情的な語りから今までに見聞きしたことのない第二次世界大戦像が浮かびあがってくる。そこには歴史の教科書やWikipedia、そして男たちの戦争回顧録には載っていない事実がある。
本書冒頭に、著者のアレクシエーヴィチが鋭い考察を述べている。
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正直、本書は途中途中で休憩をはさみつつ読まざるを得なかった。安穏な実世界に身をおきながら、ひとたび本書を読み始めると1940年代前半の極限の環境下にあったソ連の惨状が迫ってくるため、大変なストレスになった。
それでも少しずつでも読み進める価値がこの本にはある。
冒頭に書いたとおり現在はロシアとウクライナが戦争状態にある。両国は第二次世界大戦ではソビエト連邦の同胞として共に戦った歴史がある。
つまり本書に登場した女性たちが愛し育てた子どもや孫たちが、いままさにウクライナの地で敵として向かいあい、命を奪いあっているのだ。
本書には平和や非戦について特に教訓めいた箇所はない。ただ事実をもって戦争とはいかなるものであったかを語るばかりである。そこには圧倒的な迫力がある。
平和主義を謳う国の国民でありながら、いままで本書を未読であったことを恥じる。平和を語るには、対局の時代を生きた人の声に耳を傾ける必要があろう。
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