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付加価値ってなんだろう

※2016年に金属産業新聞さんに寄稿したものです。

当社は現在、ダブルヘッダー10台、ローリング7台、足割機5台にて、3ミリ径までのタッピンねじ、小ねじ類を主に製作しています。従業員はおらず一人で運営しており、2001年に開設しました自社サイトを主な営業手段と位置づけ各種情報発信をしてきました。
今のようにブログやSNSが発達する前は、いわゆる「掲示板」にて製造業のみならず各業種の方のうち、同じように積極的に情報発信する方々と交流を深め、その後SNSが出現し「ミクシィ」から始まり「ツイッター」「フェイスブック」と展開しまして活動の幅を広げ、現在では「インスタグラム」「ピンタレスト」も少しですが活動し始めています。
上記SNSでは宣伝活動はほとんどしません。理由は簡単です、嫌がられるからです。あくまで宣伝にはならないような情報をまずはこちらから発信する、その上で必然的に「入ってくる」色々な情報は有益なものが多い、という考えのもと活動してきました。
このような活動の中で知り合う事ができました方々の中に、群馬栃木方面の「両毛地区」にて活動している製造業のグループ「両毛ものづくりネットワーク」さん、というところがあります。比較的同じような規模の「町工場」の方が多いという事で以前より仲良くさせていただいており、2016年4月に開催されました主催イベント「中小企業の逆襲 Vol.4」では「たったひとりの小さな町工場が生延びてきた苦悩から成功までの道のり」と題した講演会の講師としてお招きもいただきました。こんなちっぽけな「ねじこうば」の親父に声掛けをいただくなどとは思ってもいない事で大変光栄な事でした。
おかげさまで講演も好評のうちに終える事が出来、その後も良い感想もいただいておりましたので簡単ではありますがその内容を記させていただきます。
先にも書きましたように、当社は「ダブルヘッダー」しか有しておりません。必然的に「特殊形状品」は製作が厳しい、もしくは不可となり、規格品が製造の柱です。
一般規格品はある程度の数量を製作するのが前提で数十銭という単価にて流通していますが、その数量の部分が年々少なくなってきているのは他のメーカーさんでもお分かりになっている事でしょう。ではどうすればいいか。 → 付加価値のある製品にシフト。 → 多段ヘッダーの導入。 → 2次加工品に着手。 と、こういう流れのメーカーさんも多いとは思います。が、付加価値というものは「特殊なもの」だけに発生するものではない、というのが私の持論です。
ネット経由で引き合いいただくものは、そのほとんどが「市場に流通していないもの」です。なぜ流通していないのか、それはニーズが少なく量産されていないから、で、決して「作るのが容易ではない形状だから」もしくは「どこのメーカーも作れないから」というものばかりではありません。当社も最初のうちは、百本なんて数のうちに入らない・・・という考えでしたが、途中から「ヘッダーはねじを量産する機械ではなく圧造加工をする機械」と、固かった頭を改め、数の縛りを無くし、そういうものも特に嫌がらずお受けしてきました。このように、言い方は若干失礼ですが「作ってあげた」おかげで、あらたな市場を創生した、もっと言えば「ほじくり出した」という自負はあります。レッドオーシャン、ブルーオーシャン、という言葉を聞いた事がある方もいるかとは思いますが、まさに「青い海を悠々と泳いでいる」のが現状です。 その結果、サイト開設当初2年ほどは鳴かず飛ばずだったネット売り上げが3年目より増え始め、おかげさまで昨年で3回目の年間1千万円超の売り上げとなっています。
これは単純に注文数が格段に増えたのではなく、ねじの価格、もっと言えば「価値」の考え方を変えたからに他ありません。
6年ほど前になりますが、アイフォンやスマートフォン向けの商品を製造販売している企業様から数百本のロットでの製作の引き合いをいただきました。最初のうちは数か月に一度そのロットでのご注文でしたが、それが毎月になり、本数が数千本になり数万本になり、と徐々に増え続け、今でもコンスタントにご注文はいただいています。
が、単価は最初に設定した数百本のものと同一です。それはなぜか。ユーザー様が「その単価がこのねじの価値」と認めてくれているからです。
同じような例が、最終ユーザー様が上場企業の場合でも数件あり、同じようにもう何年も同一なねじを納めています。ロットが増えても単価は変えずに、です。
このように「ねじの価値」は数量が増えても変わらない、という例が当社では普通に存在しています。
またスマホ商品企業様の場合、市場にありますその商品群の中では比較的メジャーなところで、そこそこな数が出ているようです。という事は購入されている方も多く喜んでいるという事。
取引きが始まってから担当の方にお聞きした話ですが、当社に引き合いをいただく前に他所に見積り依頼を出した際、ロットは数倍以上にも関わらず現状うちが納めている単価の5倍の値を提示されたとの事でした。ですので、ユーザー様的にも、この単価で作っていただきありがとうございます、となっているとの事です。
当社的にも、さほど面倒な仕事ではなかったのですが若干高めに見積もった案件で、実際続けてご注文いただけてもいますから今では大変ありがたい事です。
 
上記のように誰も無理な負担をせず喜んでいる状態、これが商売の本来の姿ではないかと。
 
今回の講演時のプレゼン用に制作しました資料に以下の一文を載せました。
「難しい加工ができる。精度の良いものを作れる。だけが強みになるわけじゃない。」
「より良いものをより安く、ではなく、普通のものでもより高く。」
会社の対応力、社員や代表の人柄、行動力、これもお立派な強みです。良いものを安く、これは流通業で言われていた事、製造業はその必要はありません。相手が納得してくれれば、それが高くてもそのものの価値になるはずです。もっともこの場合に、相手を騙してはいけないのが大前提にはなりますが。
会社間の付き合いの深さにもよりますので、このような価格設定等を是非一考ください、と一概には言えませんが、少なくとも国内の超極小ねじメーカー1社が、上記のような事例を持っているという事を頭の隅にでも置いていただくとありがたいと思っています。
最後になりますが、全てのイベントの終了時にご挨拶をしていただきました、一般財団法人地域産学官連携ものづくり研究機構理事の久米原宏之先生の言葉で締めさせていただきたいと思います。
「今まで、いかに早く安く良いものを作るか、と教えてきた。が、それが日本の力を弱めていたのかもしれない。」
 
 
有限会社浅井製作所 代表取締役 浅井英夫

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