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死は終わりじゃない:『あさがくるまえに』映画感想

あさがくるまえに:原題 Reparer les vivants (フランス/ベルギー)カテル・キルヴェレ監督

英題は”Heal the Living” 直訳すると”生きてる者を癒す(治療する?)”

スクリプトドクターの三宅隆太さんに「ここ10年で最も好きな映画」と言わせた作品ということで気になっていた映画。感想、かなりよかった。

ある少年が交通事故で脳死状態となる。医者は両親に息子を心臓移植のドナーとなることを勧め、悩みながらも苦渋の決断を迫られる両親。そこで全く別の家族へカットが変わる。見ていくとどうやら心臓のドナーを待っている中年女性とその家族である。ある少年の死と中年女性の再生ー。

映画の中に出てくる”死”は物語に起伏をもたらす要素として過剰に美化されたり、そこをゴールとして物語を終わらせていくように設定されていることが多い。

対してこの映画が描く死生観はそんなに悲劇的ではなく、まるで自然の営みの中で繰り返されている現象という感じ。死んでいく者、生きていく者、それぞれに生活があり、大切な思い出があり(この描写、かなりの多幸感があって脳裏に焼き付いているくらい良い)、人生があり、ある者は死んで、ある者は生きていく。もちろん死は悲しみをもたらすし、周りの人がその死をどのように受け入れていくのか、そういうことも踏み込んで描かれている。

ドナーを提供する側、提供される側、その二つの家族はお互いの情報を何一つ知らされないことになっているし、映画の中で交わることも無い。観客だけがその二つの家族を見つめている。

饒舌に、映画の高揚感で感情に訴えかけるのではなく、静かに、情景を切り取ってこちらに想像を委ねるような作品の作り方がとても良いと思った。


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