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中国語小説の翻訳教室――神の代弁者になるために(『永不瞑目』8−14章)

 欧慶春はさらに天津市や河北省の刑務所に行き、胡大慶に関する情報を集めてきました。その結果、胡大慶が中国各地で大規模な取引を行っていることが分かってきました。彼は麻薬シンジケートの一員であり、彼を捕まえることでこの組織を一網打尽にできそうです。

 帰宅途中、彼女のポケベルが鳴りました。電話を返すと相手は肖童で、彼女に会いたいと言います。ところが彼女が帰宅すると、同居している父が風邪をこじらせており、病院に送ることになりました。そのように連絡すると、肖童はわざわざ病院まで手伝いに来てくれました。李春強もお見舞いに来てくれ、帰り道に三人で食事をしました。食事中、肖童は欧慶春に感謝の気持ちを伝えるため、水晶の写真立てをプレゼントします。欧慶春がトイレに行くあいだ、李春強は肖童にいくらしたのかとたずね、2800元(彼の突き返されたプレゼントと同額)もすると聞き反感を抱きます。それから男二人が険悪な仲になります。

【原文】

 “现在的电视节目看得多了也就不爱看了。历史剧全是戏说,现代剧全是瞎写,无论是写男盗女娼※1还是写无私奉献,都是生活中找不着的,离现实太远。”

 李春强正色道:“男盗女娼是瞎写,无私奉献怎么也是瞎写?生活中不容易看到的才更要写,才更要提倡。现在的文艺作品,写献身精神的,写高尚品质的就是太少了。”

 肖童像是不屑与辩地笑一笑,脸冲着庆春说:“写的少是因为现实中太难找,人人都是雷锋你信吗?”话音一转,他的嘴又甜起来:“不过庆春※2我最佩服你了。你陪了我这么多天,你图什么呀,就算是为了你以前的那个人吧,那也让我挺感动的。所以我一直觉得你特伟大。”

【和訳】

 「最近の番組はマンネリがひどくって。時代劇はぜんぶ作り話で、現代ドラマはデタラメばっかり。悪人にしても※1献身的な人にしても、暮らしの中には存在しない。現実からかけ離れすぎてるんだよなぁ」

 「悪人の話がデタラメで、どうして献身的な人の話までデタラメになるんだ? 暮らしの中で見つけにくいからこそ脚本にして、もっと広めなければな。最近の文芸作品は、身をささげる精神や、尊い品格を書いたものが少なすぎる」李春強は真顔で言った。

 肖童は言っても無駄だとばかりに笑い、慶春の方を見ながら「なんで少ないかっていうと現実の暮らしでめったに見ないからだ、みんながみんな雷鋒(訳注:中国の模範的人民)だなんて信じられます?」と言うと、今度は甘い口調に変えた。「でも慶春さん※2、おれはあなたのことを一番尊敬しています。何日間もおれの看病をしてくれましたけど、どうしてそんなことができたんだろう。昔のあの人のためってところでしょうか、それでも感動しますよ。だからおれはずーっと、あなたは素晴らしい人だって思ってるんです」

※1 直訳は「男は盗人、女は娼婦」。面白い表現で活かしたいが、どうしても不自然になるので割愛。

※2 直訳は「慶春」。「慶春さん」ならば「庆春姐」か。

 原文の面白さを伝えきれたか不安です。ここで注目したいのは、「庆春」をどう訳するかです。李春強が彼女を呼ぶならば間違いなく「慶春」です。中国語でもよほど親しい関係でない限り、年上の女性を下の名前だけで呼ぶのは失礼です。それでも肖童が「庆春」と呼んだのは、親しみを示すためでしょうが、日本語で呼び捨てにすればケンカを売っているようにしか見えません。ここはさん付けで訳し、二人の関係がさらに親しくなり一線を越えるその瞬間に、敬称を取り払ってやりましょう。

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