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おすもうさんの明治

明治維新後、西洋の文明がどんどん入ってくるなかで、それまでの日本社会にあった伝統的な文化や芸能などがどんどん否定されていった。

そういう話は授業でもするのだが、何か例があった方が良かろうということで、例えば相撲が、という話をする。

実はこれ国立国会図書館でも展示をやっていたことがあって、関連の資料の所在がわかる。

さきほどの展示解説にも出て来るのだが、裸で大の男と男がぶつかり合うのは野蛮だという理屈で、明治政府が盛んに相撲禁止を唱えるので、対抗するために、力士も国家に奉仕できることを示すべきで、そのために消防組を組織するということをやっていたらしい。こちらの『大相撲史入門』というのにより詳しく書いてある。

それでも力士は機敏な動作ができないから消防に向かないという反対意見が政府で出て、それなら試そうじゃないかと、房総出身の漁師(地引網漁をしていた人たちだろうか)5人と、力士1人が綱引きをやって力士が圧勝したし、その他人力車夫と駆けっこして力士組が勝ち、持久力耐久力ともに問題ないことを証明して正式に消防別手組組織の許可が下りたのだという。

なんというか、相撲も大変な時代である。

『最近相撲図解』(1918年)

岩波文庫の『明六雑誌』を読んでいたら神田孝平の、国楽を振興すべきの議論に続けて、ついでのようにでも相撲はだんだんやめていくべきという議論が載っていて、そうか…と思った。

附言 角力戯は邦人の多く好むところなれども、野蛮の醜風を免れざるものとす。それ人たるものは、智をこそ闘わしむべけれ。力を闘わしむるは獣類の所業なり、人をして獣類の所業をなさしめ、これを観て楽しむ者もまた人類の所業にかなわず。いったん禁止せばその徒の狼狽もあらん。漸をもって廃業せしめば可なり。
神田孝平「国楽を振興すべきの説」(明治7年10月)
山室信一・中野目徹校註『明六雑誌』中巻(岩波文庫、2008)p.153

なんか、論理としては相当すごい気がするが、これも時代であろう。

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