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王道の冒険譚はきっと和平・共存で終わる。監督の目論見が現代に受け入れられるか、そして興行的に続けられるか?

今更ながら「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」を視聴しました。その感想でございます。

長丁場で斬新なところは感じなかったものの、わかりやすく、誰でも愉しめることを念頭に作られた体だった。(でも、子供は飽きるだろう。そして、大人は熱狂的になれる内容ではない。中学生くらいが丁度いい視聴者層だと思う)

戦争描写のある「大草原の小さな家」とでも形容できそうな、家族ドラマだった。

登場人物が多くて描く側は大変。ある一握りの登場人物にスポットが当たっている間、他の者はどうしていたのかが、とても気になってしまう展開が多い。

物語のレベルは敢えてハードルを低くしているように見えた。要するに先が読める。変にひねったりすることもなく、正々堂々とどこかでみたような王道の展開をしてくれる。

実はここにこそ、古色蒼然ではない不変性の神話たりえるかどうか、という意義がある。アバターとキャメロン監督の名前を冠したとき、観客は目新しいものを期待することだろう。そして、ウェイ・オブ・ウォーターにはそうした面目躍如が足りなかったようだ。中心とする家族を描くだけに留まって、敵役のトリックスターとなる展開は次回以降に持ち越された。フォーマットとしては連作映画ではなく、TVドラマ8話構成でやるような内容かな、と思う。

海中の映像では少し気になるところがあった。空気に関する泡の表現がない。美的観点か、あるいは描くと面倒であるとかの理由で、主人公たちが海に親しむシーンでは、「鼻から気泡」のような描写はほぼなかった。後半、若者たちがスカイピープルに追われる場面になると、若干の鼻気泡が描かれる。

CGIは美しいものの、全編を通じ、完璧なグラデーションが人工物という嘘くささを感じさせる。黒つぶれやハレーションがむしろリアルの証拠であったためだろう。

わかりやすさの為には何でも使う。クジラと捕鯨を連想させる場面はあきらか。誰もが指摘するだろうことに、東洋系の脇役が捕鯨銛を発射する場面もある。とはいえ、植民者が原住民を追い立てるシノプシスは、アメリカの入植者がかつてやってきたことでもあるわけで、そう考えれば、これは保守でリベラルなキリスト教信者が自虐的に描いた自国史であり神話なのだと解釈できる。

今回新たに加わった配役に、もう将来の意図が見え隠れしている。冒頭の駆け足の新登場人物紹介にこそ面食らった人が多いことだろう。

いずれ、(リコンビナントの)マイルズ・クオリッチ大佐は(死にかけたうえで)エイワに命を助けられ、自己犠牲でサリー一族を救うことになるのだろう。壮大な衝突と騒乱の物語も、必ずや和平・共存で終わると思う。そういう構想でシリーズを撮るのが監督の考えに違いない(シリーズが最後まで貫徹できれば)。

環境主義テーマは、持続可能な開発目標と相まって、昨今、分かりやすく目に付きやすい。地球温暖化の問題にケリがついているかどうかは、実はどうやら怪しい。科学的根拠の論争になれば、またもや反証の羅列ばかりになって、素人にはどちらが正しいか判断つかずに煙に巻かれることだろう。にもかかわらず、世界経済はパワーゲームで動き出している。CO2排出規制を新しい競争原理として制した者が今後の勝者になるのだ。

キャメロン映画は、現代的なテーマを扱っているようでいて、この部分が弱い。前回は惑星パンドラに無尽蔵の稀少鉱物でゴールドラッシュに沸く地球(=アメリカ)の逸話でしかなかった。今回も、クジラもどきから取れる抗老化物質は同じ伝で使われており、さらに惑星パンドラは地球人類の移民先になることが示唆されている。が、それがどうした、なんである。あくまで、21世紀の「大草原の小さな家」となるジェイク・サリー一家の営みが大前提なのだ。この辺はHBOのドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のスターク家と比較して欲しいところだ。家族単位であっても、新しいドラマは非常に洗練されていて、それはファンタジー世界でこそ通用するし、アバターのカビの生えた冒険譚とはひと味もふた味も違うのだ。苛烈な戦争表現にしても、「ゲーム・オブ・スローンズ」のそれは見境のない凶暴性という資本主義の写し絵を見ているようだ。ウェイ・オブ・ウォーターのそれはなんと生易しく、同じ事の繰り返しなのだろうか。

キリが光る小魚の群れでネイティリとトゥクを救う場面は、未来少年コナンのラナを思わせた。ネテヤムが沈んでいく海底の光る草原は、映画ナウシカの(その者、青き衣をまとい~)イメージを連想させた。宮崎駿作品からのそうした影響がある、もしくは印象からの効果を似せて使っていると思う。というのも、そうした結束力や(血の繋がりというだけではない)家族のテーマを考えると、行き着く先は同じであるからなのだろう。ファースト・ガンダムでアムロがア・バオア・クーからの脱出路をクルーにテレパシーで伝えるのも同じ伝だと考えていい。

家族テーマで戦争描写がなく、もっと深いものをお探しなら、スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」をお勧めする。あれこそ、家族愛と赦しの物語。

未来的で新奇な生活ぶりを仄めかしてくれるドラマなら、「ウエストワールド」第3シーズンをお勧めする。そこには今日的なAIが人類を導くテーマと、リバタリアニズムだったくせに、いつもの教導的な人道主義が社会主義的要素に対してまたもや革命を起こす様が繰り返される。保守系アメリカ人が考える落としどころとして興味深い。

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