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ネネネの短歌まとめ
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#連作

雨の夜のうた

雨の夜のうた

正解がわからないから間違っているのかどうかもわからないまま

恋人になれないひとがあったかい ばかってちゃんと怒ってよ、ばか

唇が変な角度でくっついて、それが最初のキスの思い出

矢印が曲がりくねった標識の柱にあった落書きのこと

透明な音にのまれるひとしきり溺れたあとで抱きしめられる

イヤフォンが壊れたみたい好きだった歌の続きがノイズに変わる

眼球のピントがずれてまばたきの速度が増して、た

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君は神様

君は神様

目がくらむ夜のはじまり いつだって君は神様みたいに笑う

「すき」「きらい」「いやだよ」「酔ってる?」ルーレット回し終えたらキスしていいよ

ゆっくりとだめになったりぼんやりと息ができなくなったりしたい

心臓に余分な穴が空いていてさみしいことに気づけなかった

ばかみたいだけどわたしはともだちで何にもなかったふりも得意で

ハンカチが黒でよかった口紅が赤でよかった君がよかった

楽園を目指して歩

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st

st

「ほんとうにぺったんこやな、仰向けになったらおれと変わらんくない?」

Tシャツも着物もワンピースも似合うちいさな胸にちゃんと謝れ

慎ましく生きるタイプじゃないけれど人目を気にせず走れるタイプ

心臓が直接つかまれたことをまだ覚えててたまに苦しい

貧しくはないです 夢も悲しみもきみへの想いもちゃんと守った

2017/4

なつかしいのまとめました。ツイッターにあげていたやつです。に、にねんま

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正常な無呼吸

正常な無呼吸

合言葉ふたりで決めて手放した 片方だけじゃ意味がなかった

ハウリングしちゃって笑って壇上でごめんなさいっておどけた記憶

脳みその捏造ばかり上手くなるわたしは自分を信じられない

飼い犬のしまい忘れたベロのこと 美しかった夕立のこと

発言はやめておきます群青の異臭を放つ朗らかな人

パパラッチみたいなことをしてんなよ三白眼で花はほほえむ

あなたなら大丈夫って言わないで誰かの善意がずっと重たい

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fake me

fake me

夢のまま溶ける快楽 絶望が背中合わせで微笑んだ夜

あの頃に戻りたかったあの日々のわたしをいつか許せるのかな

Never say die あの子のいない夏の日につぎはぎだらけの心臓の音

変わらないことが正しいわけじゃない泣かないことはつよがりだった

クレイジーブルース そんな簡単に傷つくなんて思わないでね

2019 「TANKA SONIC」で出した連作です。去年のマイヘアに続いて、今年は

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ムーミンがこっちを向かない月曜日

ムーミンがこっちを向かない月曜日

ムーミンがこっちを向かない月曜日 きみの背骨のくぼみを撫でた

火曜日はカエルの声が聞こえない わたしの喉はまだ治らない

終わらない仕事まみれの水曜日 駅のホームで飲み干すビール

木曜日きれいな月は見えなくて かざした指は白い深爪

会いたいと言えないくせに金曜日 マックシェイクをがんばって吸う

土曜日を引きずったまま日曜日 ムーミンいつかわたしを見てね

2019 歌人のふんどしで編んだ連

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空腹と寝不足

空腹と寝不足

楽しげに花を殺して占った無邪気なままで机を彫った

正しさを信じて走る夢を見て、それでも上手に泣けなくて、朝

秒針の音がうるさい刻まれる感覚だけで生き延びた過去

気だるげに首をかしげる扇風機はりつく汗が嫌じゃなかった

ぐずぐずに溶けたアイスの実をあげる 濁れ、きれいな絵の具みたいに

見たいものだけ見ていいよ、偽物のわたしはすこしやさしいみたい

冗談と夢と言い訳 適量はちゃんとわかっていた

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無題

無題

前置きに時間をかけてどこまでも曖昧にする 何がこわいの

人知れず泣くのだろうな君のこと忘れないまま死ぬのだろうな

不器用で立ち止まれない人間の約束ばかり集めた新書

後悔はしないと決めた夜のこと 思い出せない嘘のきっかけ

うたかたのハードボイルドだれひとり死なない予知夢いくつもの黒

最初からずっと他人でいたかった 知らずにいれば痛くなかった

2019/01
#tanka #連作

歯車

歯車

神さまはおっちょこちょいで何回もわたしにあの日を思い出させる

でたらめな歌詞をなぞった本物の嘘はきちんと突き通してね

殴られた痕は消えないしあわせのシーラカンスはずっと逃げない

丁寧に立ち上がる犬 もう足が上手に動かないって笑う

怪獣に町を襲われる夢をみた 君はわたしを庇って死んだ

おそろいの不幸自慢をするたびに君の寝言を思い出してる

振り向いたときにわたしがいなくても平気な顔で笑うん

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#25 Green Your Eyes

#25 Green Your Eyes

守るより守られていた いとしさが永遠になる夢を見たんだ

どうすればよかったのかな結末を変えられなかった光の中で

さよならはずっと言わない魂はいつでも君とともにあるから

安らかに眠れ この先もう二度と苦しまないでいられるように

どこまでもどこまでも碧 君の手をライ麦畑でつかまえて泣く

2018/12

『BANANA FISH』にどっぷりとハマり、アニメ最終回を観たあと気がついたら連作がで

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輪郭がない

輪郭がない

連作(14首)

少しずつ大人になって少しずつ君を忘れる僕を許して

たとえばの話をしたね痩せこけた腕に幾つも斜線を引いて

「嘘みたいだけどだれにも気づかれず手首を切ったことがあります」

投げつけた言葉の最後 ねじまがる気持ちの行方 いらない手紙

持ち主をなくした部屋に入るとき小指のつめを置いてきなさい

浮き輪から離れる勇気もないくせに「助けるぞ」って声だけあげる

内側にずらしてつける腕

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青春はそう簡単に終わらない

青春はそう簡単に終わらない

永遠を「とわ」って呼んだ 信じたいことを信じて死んでいきたい

自分だけ不幸みたいな顔でする別れの合図に笑ってしまう

(殺すより殺されたいな)痛みならぜんぶ背負えるひとの眼差し

どうしてもゆがんでしまう思い出を反対側にねじ曲げてみる

あの夜の続きみたいな夜でした冗談みたいに月があかるい

泣きながら傷をつくった剃刀が錆び付いている 生きてるんだね

あとがきのように解説してしまう日記をいつか

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ゆらぎ、つなぎ

ゆらぎ、つなぎ

微熱さえ出さない人の体温が上がるのが好き 愛されていた

バッティングセンター、カラオケ、夜の海、どこでふたりを捨てたんだっけ

下手くそな慰め方でごめんなと綺麗な指でわたしに触れた

ゆらぐ夜 見た目以上に浮ついた自由なきみにつかまった夜

いつだってわたしが先に目が覚めるきみの部屋にはカーテンがない

麻痺 またはなくした右のつま先の小指の爪が感じた孤独

2018/8
#tanka #連作

しがらみ

しがらみ

ほころびが美しいからなんとなく触れてしまって、それがはじまり

思い出を上手に語る能力に長けているのは虚しいからだ

はじめからほつれた糸と糸だった作れるものは何もなかった

丁寧に管理をされた人間の優しさという暴力のこと

何度でも花びらは散る大切に守った嘘をばらまいて散る

長すぎる前奏みたい溶けてゆくアイスクリームがきらきらにじむ

ストローの先っぽ噛むのやめなって言うたび笑う好きだったひと

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