noob
明日、WWWのステージに立つ。
これまで何度ここに足を運んだかわからない。ほかのどのライブハウスにもない洗練された空気感。
複雑な幾何学模様を投写する艶やかなライティング。
独特の勾配を持つ会場設計は、ここがもともと映画館だった名残りだという。
King Gnu、ものんくる、Kroi、Nao Kawamura、さらさ、かつてたくさんの仲間やライバルたちがこのステージを踏み、集まったオーディエンスを沸かせる様子を客席からジッ、と眺めてきた。
大抵の場合、彼・彼女らはスマートに告知を打って、公演も余裕でソールドアウト。ここを皮切りにおれたちはさらにデカくなっていきますよ、と大手を振って世界に公言する。
ステージに立つ前から成功することが約束された場所、WWWとはおれにとってそういう特別なライブハウスだった。
ゆえに、おれがあのステージに自分の力で立つなど、まだまだ遠く叶わぬ夢と漠然と信じていた。
〜〜〜
音楽活動を始めてもうすぐ20年。
事務所・レーベルへの所属経験はなし。
業界の人に送るメールは、いつも最後には返信が途絶えた。
誰にも相手にしてもらえず精神的な消耗を繰り返す日々の中、いつしかアーティストとしての自信は完膚なきまでに叩き潰され、おれは卑屈な男に成り下がっていった。
弟からWWWでリリパを開催するのはどうか、と提案されたとき、いやいや…と苦笑いで遮った。絶対にうまくいくわけがないからと、丁寧に理由を探して説明した。
WWWに立つアーティストはもっと自信に満ちていて、売れる準備もできていて、スペシャルでなきゃいけない。
おれなんかが立つことを望んじゃいけないステージなんだ、と。
目の前の弟に対し、自分が如何にダメであるかを説きながら、おれはもう理解していた。
おれはただ、失敗して、自分の小ささや滑稽さ、人望のなさを改めてハッキリと目の当たりにするのが恐ろしかっただけだ。
負け戦に挑むぐらいなら、最初から戦わないことを選択しようとした。
愚かにもそれを"賢さ"であると勘違いして。
ハア…
もういい疲れた。
自分を呪い続けるのも大変だな。
無謀なのは結局、この人生を選んだ時から変わらない。
恥なんてもう死ぬほどかいてきたし、痛覚もだいぶ前から麻痺している。
今さら格好なんてつかないなら、せめてデカい音出して憂さ晴らししてやろうか。
明日、WWWのステージに立つ。
頑張れおれ。
世界中の笑い者であれよ。
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DinoJr. 1st EP「noob」
Release Party🪩🪩🪩
🗓 2024年5月16日(木)
📍 Shibuya WWW
GUEST:HALLEY / S.A.R.
⏰ OPEN 18:15 / START 19:00
🎫 ¥3,500 (+1ドリンク別)
チケット🎟️👇
https://w.pia.jp/t/dinojr-t/