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出張三脳研究所:基礎クラス2限目A「悟りと脳」講義

※サンプル体験その2です。ここは研究所の基礎2限目の講義のクラスです。三脳研究所では、もっとも基礎の講義からテキスト形式の小説風の読み物で展開していきます。その数は意外なほど多く、しかも、関連する講義テキストは増え続けていきます。ゲームの世界に入り込んだような、謎の多い研究所のなかでくり広げられる、奇妙な講義と実践の数々。ここに入ったその日から、あなたの生活は変わり始めるでしょう。

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講義の部屋に入ってまず驚いたのは、講壇の端で講師が天井から吊り下げられていることだった。そして、他の聴講者たちは特にそのことを気にしていないことにもとまどった。いったい、どういう場所なんだここは。


背中に吊りロープを通し、天井から吊り下げられている講師はしばらくロープの撚りによってぐるぐる回っていたが、やがてなんとか正面で止まり、何事も無かったようにしゃべりだした。

ネド「では、『悟りと脳』の基礎クラス講義を始めます。前回の講義で『悟り』について当研究所の定義を決めました。すごーく賢そう、とか、見てるだけでありがたい、とか、そういうものは定義ではありませんでした。ね?」

じどーしこーのあるなしー!
じどーしこー!

聴講席から投げやりな声が上がる。もしかしたら、席から叫ぶ係とか担当が決まっているのかもしれない。じどーしこーという声に、ごーごーいちー、という声も混じっていたような気がする。

ネド「そうですそうです、そのとおり。頭のなかに聴こえる声、自動思考です。この自動思考がほとんど消えて無くなった状態を、当研究所の『悟り』の定義としています。つまり、皆さんのめざす状態ですね」

ネド「そして、その状態は脳の機能のバランスによって実現できる、という仮説を立てました。仮説ではありますが、かなり検証が進んできています。そこで今日の講義では、脳の基本的な情報を見ていこうと思います。脳について知ることが、この先のワークをしていく上で、とても大切になってきますので、よく聞いて覚えてください」

ネド「わたしたちの頭、頭蓋骨のなかには、脳が入っています。その脳の、いちばん大きい部分が大脳です。大脳は左右二つに分かれています。真ん中で切ったかのように、きれいに分かれているんですよ。身体の右側にあるほうを大脳右半球、通称『右脳』。左側にあるほうを大脳左半球、通称『左脳』と呼びます」

ネド「もちろん、左脳と右脳の間をつなぐ神経回路も存在します。左脳と右脳は2億から3億5千万本もの神経線維でつながれているのです。左脳、右脳は完全に別々の器官というわけではなく、脳ぜんたいが統合されて動いています」

ネド「けれども、左脳と右脳には、なんというか得意分野のようなものがあり、性格のようなものまである、とわたしは感じています。性格はともかく、脳には特定の場所に機能が集中している『野(や)』と呼ばれる部分があり、言語野、運動野、視覚野などと名付けられています。そこが傷を負うとその機能が失われるのでわかります」

講師は、ここでハッと顔を上げる。
ネド「そういえばわたしの一冊目の著書は、『左脳さん、右脳さん。』というタイトルでした!奇遇!」

ダイマー!
ダイマかよー!
ぜんぜん奇遇じゃねーぞぉ!
聴講席から声が飛ぶ。隣席の人に聞くと、ダイマとはダイレクトマーケティングの略だそうだ。よくわからないが、隠しもせず直球で宣伝すること、らしい。ネットスラングなのだそうだ。

講師はと見れば、なぜか「えへへ」と照れまくっている。

ネド「最近では、脳の神経回路以外にも、グリア細胞と呼ばれる基盤の部分も別の刺激伝導で働いていることがわかってきています。コンピューターで言えば、回路が組まれている基盤の板の部分が、回路とは別の情報を送り合っているという状態です。ものすごく面白いので、皆さんもぜひ脳に関する本などを読んでみてください。当研究所の図書室にもリンクがあると思います」

ネド「ここでは主に大脳の右脳、左脳を中心に講義を進めていきます。次のボードを見てください」
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