『ヒーローショー わたしが躓いたすべてを当事者研究から眺める』第1章.14

敢えてこのホテルでの仕事に就けて良かった点を言えば、十九歳で初めて就いた仕事で8ヶ月も続けられたことと、体力仕事で体重が一気に15キロ程は痩せたことでしょうか。そうして働いている間に、Kちゃんと遊んだり、音楽繋がりで初めて彼氏が出来たりもしていたから、その二人に支えられてなんとかなっていたのだと思う。けれど少ないお給料から家にお金を入れていたり、仕事や家庭内でのストレスから、荒んだ心はそのままでした。
「もう死んでしまったほうがいいのじゃないのか…」
といった究極にネガティブな思考はずっと頭の中に居座ったまんまで、彼氏にもそれは話していました。過去に自分が自殺しようとしたことを話して目の前で泣き出されてしまった時は焦りました。彼は
「君のことを全部受け入れるよ!」
と言ってくれましたが、私はその言葉に甘えて、愚痴やネガティブな発言を彼にぶつけまくってしまいました。そうしながらも内心では、
「私のことなんて、彼には理解出来るわけがない」
とまた、決め付け・思い込み思考にも走っていました。決して健全な関係なんかではなかったようにも思います。
 もうひとつ、ホテルで働いてみてわかったことがあります。結局のところ、私は人間関係に悩みやすい質なのだと。何故って、ネットから抜け出して現実の友達が出来たって、外で働いてみたって、彼氏が出来たって、私の人間不信の根っこはそのままだったから。このままでは、また次の仕事を見つけてもうまくいかないかも知れないし、自分は変われないのじゃないかと思いました。口下手で人見知りなところも、本当は直したいと思っていました。私は、人との関わり方を覚える為、対人恐怖的な人見知りを直す為に、次の仕事は接客業にすることにしました。
同時期父が、今度は兄名義で家を建てたので、また引越しをしました。

 そうして私はとあるゲームセンターの面接へ行き、数日後、無事採用されました。このゲームセンターでは二年半程働けましたが、最初の1年間はどちらかと言えば毎日辞めてしまいたかった。研修中は、プライズコーナーとメダルコーナーの内、プライズコーナーでの仕事を教わっていました。プライズコーナーとは所謂“UFOキャッチャー”があるフロアで、お客さんに一番最初にいらっしゃいませ、と挨拶をする場所。しかし私はここで、例の対人恐怖的な人見知りをフルで発揮してしまって、お客さんが入店されるのを見ながらも、声がひとつも出せなかった。なんとか搾り出してみても、口元でどもってしまって、お客さんにも他のスタッフさんや社員さんにさえ聞こえない程度でした。全然駄目だ、これでは接客にならないと、私自身もだけれど、社員さんも思ったみたいで、
「君、お客さんが怖いの?」
とズバリと言い当てられてしまったのです。そう、私はお客さんが怖かった。何がどうとかではなく、単純な恐怖感があった。冷静に考えてみれば、お客さんが私に何か害を与えてくる訳がないのだけれど、とにかく怖かった。なので最初の頃は、社員さんに言われて、お店の扉の前に一人で立ってやってくるお客さんに挨拶していくということだけをやっていた。初めは全然声も出なかったけれど、数日続けていくうちに段々慣れていって、挨拶だけの仕事は終わりました。
 けれど人見知りが直った訳ではなかったので、フロアでもしょちゅうミスをしていました。やんちゃっぽい男の子達に、UFOキャッチャーの景品を取りやすくするようにしつこく催促されて怖くなり、よく考えずに景品を動かしてしまって社員さんに怒られたり、またしてもやんちゃそうな男の子達に、
「きのこ!きのこが居る!」
と当時の私の髪型をいじられ笑われて怖くなって休憩室に逃げ込み、社員さんに怒られたり…。(当時私の髪型は本当にきのこみたいなボブだった)
 そんなふうにして、日々社員さんから注意されながらもなんとか仕事を続けて、半年が過ぎたあたりで、職場スタッフだけの飲み会に誘われました。そこでやっと、お酒を交えて他のスタッフ達と打ち解けられました。(それまではほぼ全員から嫌われていたらしいけど)
一緒に働いてくれるスタッフ達と打ち解け、仕事中にもわからないことや困ったことがあったら、先輩スタッフ達に怖がらずに声をかけることが出来るようになってから、少しずつ仕事を覚えていけました。それからは、ぬいぐるみが好きな私は景品を扱う作業は楽しめたし、UFOキャッチャーの裏事情というか、如何にして景品の配置や取り方を決めているかとか、どうやったら景品を落とすのがうまく出来るか(また逆に、落としにくくするか)といったことを知ることが面白かった。仕事がお休みの日に別のゲーセンに行っては、前よりも景品ゲット数が増えたことも嬉しかった。
 そうこうしている内に勤務するようになって一年が過ぎた頃、フロアでまたしても接客ミスをしてしまい、今度は店長に怒られてしまいました。当時の店長は、事務室に篭るのを良しとせずに、毎回社員さんのようにフロアへ出て接客に就くような仕事の出来る良い店長で、その日もインカムを一部のスタッフと一緒につけて仕事をされていたのです。たまたまその日は私もインカムをつけていて、接客に困ってインカムで先輩あてに話したら、店長がそれを聞きつけて駆けつけてくれたのです。そして対応が終わったあとで事務所へ呼び出され、ものすごく怒られて、私は大泣きに泣いてしまったのです。
その一件があってから、私はプライズコーナーを外され、いきなりメダルコーナーに配属になりました。店長が、私を異動させたらしかった。可愛いぬいぐるみ達と引き離され、真っ暗で機械の音のうるさい、タバコの匂いが酷いフロアに移されることになり、ここからがまた大変な道のりが始まったのです。

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