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続・荒野の用心棒

Django (1966)

 セルジオ・コルブッチ監督、フランコ・ネロ主演のマカロニウエスタン。バイブルですね。コルブッチは「豹/ジャガー」「ガンマン大連合」みたいな娯楽系が得意の監督だと思うんですが、本作や「ミネソタ無頼」、「殺しが静かにやって来る」(個人的なコルブッチのベスト作)といった作品の、ダークサイドに墜ちたときの破壊力は凄まじいです。普段は面白いおじさんなのに、急にみんなを怒鳴りつけることもあったらしいので、二面性を持った人だったんじゃないでしょうか。

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 今さら語るのもこっ恥ずかしい名作ですが、本作のネロのかっこよさは神懸かってますよね。コルブッチ監督は、当初「リンゴ・キッド」のマーク・ダモンを主演に考えていたそうですが、ネロになって本当によかった。泥海を男が馬にも乗らず、棺桶を引きずって歩くオープニングなんて、誰が考えたのか、と見る度に感心します。
 “ジャンゴ”という名の由来は、1930~50年代にかけて活躍したベルギー出身のジャズ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトです。ロマ(ジプシー)の出身で、ワゴンの火事が原因で左手指が不自由になったにも関わらず、信じられないような速弾きを得意とします。映像を見るとわかりますが、左手薬指・小指をまったく使っていません。

 ネロはマカロニ俳優のなかでも特にガンさばきがシャープな人で、実際に射撃コンテストで優勝したりもしてるそうなんですが、本作ではちょっと手元が怪しい場面があります。酒場でジャクソン少佐(エドゥアルド・ファヤルド)の手下を瞬殺した後、ピストルのフォワードスピンにキレがない上、ハンマーを起こし損ねています。それと、マシンガン掃射の後で少佐の馬を倒す時、袂からピストルを抜くのがおぼつかない感じです。「真昼の用心棒」や「ガンマン無頼」ではかなりキレたガンさばきを見せるので、短期間で相当練習したんじゃないでしょうか。

 「あばよ、達者でな。俺は行くぜ」「行かないでえー」(ヒヒーンパカパカパカ)がマカロニにおける男女の結末の定番ですが、ダークでハードなストーリーにも関わらず、ラストはマリア(ロレダナ・ヌシアク)のために必死で闘うのが、私はとても気に入っています。形は違いますが、「殺しが静かにやって来る」も定番から外れた、それでいてやけにマカロニらしいラストだったと思います。
 少佐とのラストファイトでジャンゴが盾にする『メルセデス・ザロ』の墓標は、少佐に殺された妻または恋人のものですが、その魂の力を借りて最後の闘い挑むのは、ハードボイルドにおける一抹のロマンティシズムとしていい味付けになっていますよね。墓場のレイアウトもめっちゃかっこいい。

 手を潰されたジャンゴは、銃のトリガーガードを歯で外してラストファイトに臨むのですが、コルト・シングルアクションアーミーのトリガーガードは映画のような構造ではないので、外してしまうと撃発できません。

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 ルイス・バカロフが作曲した、みんな大好きな主題歌を歌うロッキー・ロバーツは米国人で、元は空母インディペンデンスの乗組員でした。(それ以前はボクサーで、ウエルター級のチャンピオン) 水兵仲間と組んだバンド、ロッキー・ロバーツ&エアデールズとしてイタリアでデビュー、ロックン・ロールやリズム&ブルースをイタリアで流行らせた人です。うん、これは確かにかっこいい。

※ タイトルが「The Bird Song」となっていますが、正しくは「T-Bird」(フォード・サンダーバードのこと)です。

 「続」と銘打ちながら、セルジオ・レオーネ監督/クリント・イーストウッド主演の「荒野の用心棒」の続編でないことはご存じの通りですが、町を二分する勢力を計略をもって壊滅させるストーリーは、黒澤明の「用心棒」を緩く下敷きにしていると言っていいでしょう。レオーネ監督も、本作ぐらいの拝借にしておけば訴えられることもなかったのにねえ。

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