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ザ・ギフト

The Gift (2015)

 俳優ジョエル・エドガートンの初長編監督作となるスリラー/サスペンス映画。主演は「モンスター上司」のジェイソン・ベイトマン、「プレステージ」「それでも恋するバルセロナ」で注目されたレベッカ・ホール。サイモン(ベイトマン)とロビン(ホール)の夫婦が、シカゴからサイモンの地元に仕事で戻ってくると、サイモンの高校時代のクラスメイトだったゴード(エドガートン)と再会、引越祝いのワインを受け取るが……というお話。

 「遊星からの物体X ファーストコンタクト」のヘリコプターパイロットや「ゼロ・ダーク・サーティ」のDEVGRUチームリーダーなど、タフガイや立派な人物のイメージが強いエドガートンですが、本作では不気味な変人(weirdo)を演じています。生気のない目に半開きの口、かなりキモくていいですね。頭は悪くないので会話はできるけど、微妙なところで意思疎通が不可能な感じ。唯一、クッソださいダブついた服で隠してはいますが体躯がガッシリしているのが丸わかりなので、ショボさがないのがやや難ではありますが。中盤までは、きっとコイツがしつこいプレゼントを拒まれて逆上し、善良な夫婦がひどい目にあうんだろうな……と思わせますがさにあらず。真相に観客の理解を運ぶ手口がとてもスムーズで説得力があります。脚本もエドガートンが書いていますが、素晴らしいと思えました。序盤で早々に気付く勘のいい人もいるかもしれませんが、ミステリーの皮が丁寧に剝がされる過程で、『不気味な奴』を凌駕する『本当にイヤな奴』が浮かび上がってくる過程を見るのも悪い気分じゃないでしょう。そのプロセスにはさほどじっくり時間を掛けてはいないのですが、タイミングが非常によく、映画に観客をのめり込ませる力に繋がっています。

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 本作の面白いと思ったところが2点ありました。まず、誰も死なないし、何だったらひどい怪我も負わないこと。(魚は死にましたけど) もう1つは、敢えて謎を残すことで『復讐』の深度を増すとともに、観客に誰かが死ぬよりもイヤーな印象を植え付けること。この2点が上手く作用して、怖さよりも不快さの増す映画になっています。本作の不快さはさじ加減が上手いので、エンタテインメントにも繋がっていると思います。

 いっぽうで、怖さの面においては今ひとつだったかなあ、という気もしています。2度ほどあるびっくり演出はまあまあ許しますけど、ロビンの本当の怖れの対象や、サイモンの猿恐怖症、ゴードが『キレた』タイミング等については、もう少し掘り下げる余地もあったのでは、と思います。また欲求はそこまで強くないですが、魚を全滅させたのは誰なのか、わんこを誘拐(そして解放)したのは誰なのかについても、もう少し強めの説明があってもよかった気がします。

 いずれにしても、エドガートンの初メガホンとしては、出来過ぎと言っていいほどの上出来でしょう。ネタバレ全開で考察を交わし合うのが楽しそうな映画ですね。

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