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ドクター・エクソシスト

Incarnate (2016)

 「カリフォルニア・ダウン」「ランペイジ 巨獣大乱闘」のブラッド・ペイトン監督のホラー映画。出演はアーロン・エッカート(「世界侵略:ロサンゼルス決戦」「ハドソン川の奇跡」)、カリス・ファン・ハウテン(「ワルキューレ」)、カタリーナ・サンディノ・モレノ(「そして、ひと粒の光」)等。

 夢枕獏のシリーズ小説でお馴染みのサイコダイブ能力を持つ主人公が、少年(ダヴィード・マズーズ)を『侵食』した仇敵『マギー』と対決するお話。主人公はローマ・カトリックとの繋がりはあるけれど聖職者ではなく、自らを『カウンセラーのようなもの』で、悪魔は『寄生虫のようなもの』、2人の助手(キア・オドネル、エミリー・ジャクソン)と科学技術を用いてそれらを撃退する行為を『治療のようなもの』と説明します。一連の悪魔祓い映画と毛色の違う設定にちょっとワクワクしますよね。特殊能力を持つアウトロー的な主人公の設定・造形は「コンスタンティン」を連想させます。オカルト/ホラーと言うよりはアクション映画に近い。ですが、先に書いておきますと、本作の私の感想はほぼ批判一色です。

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 本作は、いくつかの魅力的な設定をみせておきながら、それらを映像化してみせるのに手いっぱいで、ストーリーを映画作品として掘り下げ昇華させるに至っていません。よって物語は、物凄いスピードで観客の意識の表層をかすめていくだけです。絵はかっこいいけどうっすいアメコミを、超高速で読み飛ばしたような気分。残るのはそれ単体では機能しない断片的な斬新さやかっこよさだけです。

 詰め込み過ぎなのかと言えばそんなこともない。語りたいエピソードははっきりしていて、絶対的な無駄はあまりないです。でもやっぱり掘り下げが浅くて、自分の撮りたいものだけ撮ってさささっと並べてる感じなんですよね。なんか映研の作品っぽい。(笑) 例を挙げるとキリがないんですが、一番もったいないなあと思ったのは、少年が憑依された後の描写ですかね。暗い部屋に少年があぐらをかいて座っていて、邪悪な雰囲気は出てるんですけど、誰もそんなに困っているように見えない。取り付かれると生気を吸い取られて死んじゃうらしいんですが、絵面にそんな雰囲気は全然ありません。母親(ファン・ハウテン)も、態度こそつんけんと刺々しいものの、泣くでも喚くでも嘆くでもなく、不機嫌なコメンテーターみたい。主人公がトラブルシュートを引き受けた動機なんてどうでもいいじゃん、藁にもすがりたいのと違うの? ってなもんです。

 「エクソシスト」みたいにしたくなかったのはよく判るんですが、別な要素で埋め合わせることができていない。考えてみれば、『マギー』の攻撃対象ってあくまで主人公で、いろんな人に憑依しているのは、そうしないと『死んで』しまうからですよね。迷惑だけど邪悪じゃないじゃん。(笑) なので、バッドエンドのラストも理不尽さばかりが先走ってしまい、全然ゾクッときません。その直前の病院のシーンはいいアイデアだと思いましたし、エッカートの演技もよかったと思いますが、厳しいことを言えばもっと演出の余地はあったと思います。

 アイデアはすごくいいのに、それを映像化する仕事が全部お粗末なんで、それなりの俳優が出ているのに無駄に終わっちゃってる映画でした。もしも原作のある映画だったら、原作者は怒り狂ったでしょうね。ペイトン監督の責任は、なかなか重いと思いますよ。

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