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異端の鳥

The Painted Bird (2019)
映画『異端の鳥』公式サイト

 ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に英語で書いた自伝的小説(未読です)を原作に、チェコ人のヴァーツラフ・マルホウル監督が映画化。同監督作品は、第二次大戦の北アフリカ戦線に従軍するチェコスロバキア義勇兵を描いた「戦場の黙示録」を見たことがありました。結構ずしんとくる映画だったですねえ。
 本作はそれに続く3作目。第二次大戦中の東欧のどこか、ホロコーストを逃れて疎開した少年が、行く先々でひどい目にあわされ流転していくさまを描く物語です。

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 ネット上では本作を「正視に耐えない」「残虐」「グロ」等々、渡辺文樹監督作品ばりにセンセーショナルな評もあるようですが、間違っちゃいないけど個人的にはちょっと表層的だなあと思います。個人的にオープニング以上にキツイ場面はなかったですし、そもそもラース・フォン・トリアーや一部のミヒャエル・ハネケ作品みたいに観客に嫌がらせをするのが目的の映画ではありません。かと言って、「戦争はイヤだよね」「ナチスはひどいことしたよね」と政治的な主張をする映画でもありません。

 マルホウル監督もどっかで言っていたことですが、戦争中の東欧が特殊だったわけではなく、この映画が描く暴力や残虐の多くは、人間の本質的ないし普遍的なものだと思います。なので観客はことの悲惨さに目を伏せたり、同情で胸を詰まらせたりすることなく、意外なほど冷静に何が起こっているのかを見極め、頭に刻んで、自分を取り巻く現状と照らし合わせることができるんじゃないかなあ、と感じました。ただし原作は映画以上に露悪的なまでに残酷だそうで、それでも作者の友人は「この小説は、自分たちや家族の多くが戦争中にくぐりぬけた経験に比べれば、牧歌的な小説である」と批判したらしいです。気持ちはわからなくもないですが、小説や映画が悲惨レースをしてもあまり意味がないんじゃないかな、とも思いますけども。

 東欧のあまり馴染みのない俳優に混ざって、有名どころが何人か出演しています。暴力的な製粉業者を演じるのはウド・キアー。トリアー作品の常連ですね。スウェーデン出身のステラン・スカルスガルドは、少年の処刑を買って出る初老のドイツ空軍兵を演じました。一説では彼は映画の趣旨に感銘を受け、120ドルでこの役を引き受けたそうです。武装親衛隊から少年を引き取る司祭役はハーヴェイ・カイテル。さらに司祭から少年を引き取っていじめる男にジュリアン・サンズ。彼がこういう役どころなのは珍しいんじゃないでしょうか。そして、「プライベート・ライアン」で米軍の狙撃手に扮したバリー・ペッパーは、ソ連軍の狙撃手を演じました。

 自分の名前や素性を失った(語らないだけではなく、本当に失っているように見えます)少年が、最後の最後で自分の名前を取り戻すシーンは、160分以上にわたって冷えた魂を少し温めてくれますね。

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