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「パピヨン」からの、ザ・クラッシュ私的アルバムランキング

 しばらくnoteをお留守にしていましたが、映画はちょいちょい見ております。直近で見たのはフランクリン・J・シャフナー監督:スティーブ・マックイーン&ダスティン・ホフマン主演の「パピヨン」。

「パピヨン」(1973年)

Papillon (1973)

 「大脱走」とともに重要な、マックイーン主演の脱走もの。原作は1969年に出版されたアンリ・シャリエールの同名自伝小説で、「テッド・バンディ」でも逮捕後のバンディの愛読書として登場していました。
 何度独房に送られようと自由を求めて脱獄を繰り返すパピヨンと、「大脱走」でマックイーンが演じたヴァージル・ヒルツ大尉は、不屈の敢闘精神という点で相似しますが、本作はもっともっと過酷でシリアス、ゆえにマックイーンの渾身の演技が何とも言えない感動を呼びます。
 特に脱走の廉で独房に入れられ、ココナッツを差し入れた者の名前を吐かなかったばかりに食事を制限されるとともにわずかな光も遮られ、衰弱と狂気にかられていく様は圧巻。胸が詰まります。ココナッツを差し入れたドガ(ホフマン)の名前を吐きそうになるパピヨンと、「自分なら白状する」と言うドガ。友情とか絆とかいう言葉では表しきれない、男の魂と男の魂の極上のコミュニケーション。
 アクション映画スターのイメージが確定しているマックイーンですが、晩年には自ら制作・主演を務めた「民衆の敵」なんかもあったりして、実は意外と演技派指向なところもこの頃からすでにあったんだなあ、と。

ダルトン・トランボ

 「パピヨン」の冒頭、仏領ギアナの刑務所に集められた囚人たちを前に「フランスはお前たちを見捨てたのだ!」とスピーチする官憲を演じたのは、本作の脚本を書いたダルトン・トランボ。
 共産党員だったトランボは戦後のマッカーシズムによる赤狩りでハリウッドを追放され、いわゆる「ハリウッド・テン」の1人として8ヵ月間服役しました。出所後は偽名や他の脚本家の名義を借りて脚本執筆を再開、「ローマの休日」「黒い牡牛」などの脚本を手がけました。(現在はどちらもトランボの名前がクレジットされているようです)
 60年代に入ると「スパルタカス」「栄光への脱出」といった映画では監督らの後押しもあって実名でクレジットされるようになり、本格的にハリウッドに復帰します。「パピヨン」には、ハリウッドから追われた自身の経験と心情が反映されているとされていますね。
 トランボの赤狩りとの闘いは、2015年の映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」に描かれています。

「ジョニーは戦場へ行った」(1971年)

 トランボが1939年に発表した反戦小説を、ベトナム戦争中の1971年に自身の脚本・監督で映画化したのが、トラウマ映画とも呼ばれる「ジョニーは戦場へ行った」。

Johnny Got His Gun (1971)

 メリークリスマスとか、キルミーとか、まったくもって気が沈み胸が苦しくなる素晴らしい映画です。「感動する」という言葉を、「心があったかくなる」「心が満たされる」「泣ける」に限らず、広く「感情が動く/動かされる」と解釈するなら、「ジョニーは戦場へ行った」はめっちゃ心が動かされる「感動作」だと思いますねえ。

Metallica「One」

 「ジョニーは戦場へ行った」をモチーフとした名曲。1988年発表の4作目「メタル・ジャスティス (...And Justice For All)」に収録されています。MVには台詞を含む映画のシーンがコラージュされており、アルバム収録バージョンとは異なっています。

 こちらのブログで、歌詞のみならず映画の台詞も和訳されています。ぜひご覧ください。
 戦争で生きる肉塊となってしまった男のストーリーとしては、若松孝二監督の「キャタピラー」がありますが、政治的メッセージをはらんだオリジナルストーリーに、大好きな江戸川乱歩の傑作短編「芋虫」を無造作に持ち込んでいるため、個人的にはこの映画はあまり好きではありません。寺島しのぶの演技はすごいと思いますが。

「Johnny, I hardly knew ye」

 19世紀に発表されたこの曲は、アイルランドの反戦歌です。戦争で手足を失ったジョニーを、恋人が迎えるとても悲しい歌詞です。「ジョニーは戦場へ行った」は、この歌にインスパイアされたとも言われています。

 こちらはジョーン・バエズの歌唱。そもそも歌詞の一人称はジョニーの恋人なので、すごくしっくりくるバージョンです。おっさん声でガンザンドラムザンハルーハルー言うのも面白いのですが。


 お聞きになるとわかると思いますが、南北戦争中のアメリカで歌われた「ジョニーが凱旋するとき(When Johnny comes marching home)」と同じメロディになっています。どちらが先に世に出たかには諸説あるようですが、「I hardly knew ye」が「marching home」の替え歌である、というのが真相みたいです。(ただし、「marching home」の原曲が英国発祥の別な歌だとも)

The Clash「Engrish Civil War」

 ザ・クラッシュの1978年のセカンドアルバム「動乱(獣を野に放て)(Give 'Em Enough Rope)」の収録曲。「ジョニーが凱旋するとき」のメロディにオリジナルの歌詞をつけたカバーです。

 TV番組のライブですが、口パクじゃなくちゃんと演奏してます。ベースのポール・シムノンがちょっとイメージの違う髪型でかっこいい。トッパー・ヒードン、やっぱりドラムうまいなあ。

 「動乱」は、私的にはザ・クラッシュの最高傑作です。アルバムを好き順で並べるとこんな感じになります。

1.動乱(獣を野に放て)1978年
2.コンバット・ロック 1982年
3.ロンドン・コーリング 1979年
4.白い暴動 1977年
5.サンディニスタ! 1980年
6.カット・ザ・クラップ 1985年

 中学生で「動乱」でハマり、「サンディニスタ!」でうーんとなって、「コンバット・ロック」で!!!!となって、「カット・ザ・クラップ」でコレジャナーイみたいな。

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