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悪魔の棲む家

The Amityville Horror (1979)

 ジェイ・アンソン著「アミティヴィルの恐怖/全米を震撼させた悪魔の家 ドキュメント」を原作とするホラー映画。監督は「暴力脱獄」「マシンガン・パニック」「チャールズ・ブロンソン/愛と銃弾」のスチュアート・ローゼンバーグ。出演はジェームズ・ブローリン、マーゴット・キダー、ロッド・スタイガーほか。いわくつきの家で怪奇現象が多発する、現代型幽霊屋敷ものの走りです。

 原作は実話と銘打っていますが、ご存じの通りフェイク・ドキュメントとされています。ただし殺人事件があったことと、1年後に家をラッツ一家が買い、程なく手放したのは事実。プロローグとなる殺人事件の犯人ロナルド・デフェオ・ジュニアは1975年に終身刑の判決を受け服役、今年3月に69歳で獄中死しました。(死因不明)

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 さて本作ですが、(擬似)ドキュメントが原作であるため、個別の怪奇現象をエピソードとして並べているので、実はあまりドラマティックな盛り上がりがありません。一応序盤にブローリンとキダーのベッドシーンがあったり、後半は地下室内の赤い部屋の発見があったりと、それなりの流れはありますし、そこに神父(スタイガー)の立ち回りも絡めてストーリーを膨らませてはいるのですが、正体不明の怪異にクライマックスを預けてしまっているので、家族が逃げ出すラストの尻切れとんぼ感が凄まじく、余韻も何もございません。骨太な筋運びが特長のローゼンバーグ監督が本作に適任だったのか、ちょっと疑問もあったりします。

 怪奇現象にもそれぞれに意味づけがされていないので、瞬間的な怖さはまああるのですが、それがなかなか「家」そのものの怖さとして蓄積される効果となっていません。例えばドアを斧で壊すブローリンに後ろから組み付いたキダーに、しわしわの特殊メイクが施されているのですが、唐突過ぎて何のことだか判らないと思います。(「妻が老婆になって自分を襲ってきたように見えた」という実際の夫の証言がある) 一応、ブローリンが日に日に正気を失っていく(シンクロして神父もおかしくなっていく)ので、「家がヤバイのは判ってるんだから、モーテルにでも逃げればいいじゃん」というツッコミは回避できます。

 ラストは尻切れとんぼと書きましたが、直前のわんこ救出エピソードいいと思います。家族の一員であるわんこを、ブローリンがタールマンみたいになりながら助けたのももちろんいいのですが、わんこを抱きかかえたブローリンが車に戻ってくる姿を見て、子供たちの顔が明るくなるんですね。恐怖体験を経ても、家族が再生する兆しを見せたいい演出だと思います。(実際のラッツ夫妻は、1980年に離婚しましたが)

 「エクソシスト」「オーメン」で火のついたオカルトブームに油を注いだ本作、アカデミー賞候補にもなったラロ・シフリンの素晴らしいスコアを覗けば、映画的にはあまりクオリティが高いとは思えないのですが、本作のリメイク(2005年:子役のクロエ・グレース・モレッツがかわいい!)を含めた「アミティヴィルもの」は、正確に数えてはいないですがおそらく30作前後にもなるんじゃないでしょうか。2017年にも「Amityville: The Awakening」が公開されていますが、これは元々本作の再リメイクとして企画された映画だそうです。

 「アミティヴィルもの」は、粗製乱造って訳じゃないでしょうが、次々作られる割にはどれもあまり評価が高くないイメージです。オカルトブームが過ぎた現在でも作られるのは、舞台が基本的に1軒の家に限られるソリッド・シチュエーションと、最も身近な環境である自宅での怪異を描いているからかなあ、と思います。そうすると「パラノーマル・アクティビティ」なんかも、本作の遺伝子を受け継いでいると言えそうですね。

 余談。ブローリンの友人(「続・激突!/カージャック」のマイケル・サックス)の彼女を演じたのはカナダの女優ヘレン・シェイヴァー。サム・ペキンパー監督の「バイオレント・サタデー」やカナダ映画「漂流/極限の74日間」にも出演していますが、1989年の主演映画「身代わりの樹」がまた見たいです。現在まで一度もソフト化されてなかったと思いますが……。

 もう1つ余談。神父の助手を演じているのは、「マンハッタン無宿」の悪役ドン・ストラウド。昔見た時は何とも思わなかったですが、改めて見るとその悪役面とローブ姿、ベトナム帰りという設定から、こいつが事件に関与してるんじゃないか、という予断も生みそうですね。

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