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豹/ジャガー

Il mercenario (1968)

 セルジオ・コルブッチ監督のマカロニウエスタン。メキシコ革命でがっぽり儲けようと企むポーランド人(フランコ・ネロ)と、バカだが憎めない革命ゲリラ(トニー・ムサンテ)、彼らを執拗につけ狙う殺し屋(ジャック・パランス)のキャラクター設定は、ストーリーは全然違いますがムサンテをトーマス・ミリアンに替えて1970年の「ガンマン大連合」に受け継がれます。「続・荒野の用心棒」「殺しが静かにやって来る」といったブルータルな作品の評価が高いコルブッチ監督ですが、おそらく本作のやっちまえ感満点な娯楽作品のほうが得意なんじゃないかな、と。

 ネロ演じる主人公の通称を『ジャガー』とするのは明らかに日本だけの設定で、オリジナルの英語版ではポラックとかグリンゴとか呼ばれています。ポラックはおそらくpolacco(伊語でポーランド人)の訛化と思われます。グリンゴはご存じの通り、南米スペイン語圏でいう『白人野郎』ですね。そもそもヒョウとジャガーは種の異なる動物です。

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 多くの点で「大連合」より粗削りであるため、見劣りがするのは致し方ないのかもしれません。ネロの立ち位置、ネロ自身の演技は本作も「大連合」も大きく変わらないですが、革命バカはムサンテよりもミリアンのほうがしっくりきます。本作の革命バカはネロにべったりかと思えば大きな態度にムカついて牢にぶち込んだり、危ないところを助けられればまたコロッと尻尾を振ったり、どうも節操がない。女闘士役のジョヴァンナ・ラッリ(戦時中の1943年から子役として映画に出演、何と2014年まで現役でした)との関係性もそうで、「お前、その娘のことそういう風に思ってたの?」という感じで上手く流れを説明できていません。これはムサンテが悪いんじゃなくて、ネロに対して揺れる思いを描ききれていない脚本と演出の問題でしょう。

 悪役パランスはアクの強さを存分に発揮しており、大阪のおばちゃんみたいなきっついパーマヘアとか、ムサンテの一味に服を脱がされて全裸で立ち去るとか、笑っていいのか悪いのか微妙なところが何ともいい味です。パッと見のキャラとしては「大連合」のほうが強化されていると思いますが、本作は本作で捨てがたい。ただし、マカロニ常連のエドゥアルド・ファヤルドと一緒にいる場面が多いので、お互いに食い合っちゃってる面は否めないですねえ。イカサマ師のフランコ・レッセルを殺して十字を切るシーンとかはすごくいいんだけどなあ。

 と、「大連合」と比べてしまうとどうしてもプロトタイプと言うか、習作的な立ち位置になってしまう本作ですが、比べなければ実にコルブッチ監督作品らしい娯楽作であることは間違いありません。

 ネロが使う、あまり映画では見ない自動拳銃は、スペイン製のアストラ400。スペイン内乱でフランコ軍が使ったピストルですが、リリースされたのは1921年なのでメキシコ革命は終わっちゃってますね。ほかにも時代に合わない銃器がいくつか登場しますが、そこはそれ、マカロニウエスタンですから。

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