ミラノカリブロ9
フェルナンド・ディ・レオ監督のギャング映画。calibro 9 とは英語で caliber 9、銃の9mm口径の意味ですが、クライマックス以外にドンパチはなく、行方不明となった汚れた金の行方と、その疑惑を向けられた主人公ピアッツァを中心とする登場人物それぞれの思惑が渦巻くピカレスク・ロマンな作品です。フランス産のフィルム・ノワールともちょっと違う。主演のガストーネ・モスキンは、「ゴッドファーザー PART II」で若き日のヴィトー・コルレオーネ(ロバート・デ・ニーロ)に殺される強欲なドン・ファヌッチを演じていました。
ディ・レオ監督と言えば「続・荒野の1ドル銀貨」「真昼の用心棒」等々、60年代のマカロニウエスタンの脚本家として有名ですね。やたらブチきれる警察署長のフランク・ウォルフ、彼に煙たがられる真面目な刑事のルイジ・ピスティッリは、ともに傑作マカロニ「殺しが静かにやって来る」に出演していました。音楽監督のルイス・バカロフも「続・荒野の用心棒」をはじめ多くのマカロニ音楽を手掛けた人です。
そんな感じなのでマカロニ臭は当然ありますが、意外と東映実録路線の匂いもするんですよね。寡黙なピアッツァは菅原文太さんを、逆に表情豊かでノリの軽いロッコ(マリオ・アドルフ)は松方弘樹さんを思い起こさせます。盲目の元親分(イーヴォ・ガラーニ)が嘆くように、昔気質のマフィアが廃れ、目先の金を追う新興犯罪組織が台頭する時代背景も似通っていますよね。
単純な話の割に演出はかなり荒っぽくて、見ている側が想像力を働かせないとストーリーを見失いがちになります。ハリウッド映画に慣れていると、イラッとくるかもしれません。それでも70年代イタリアの風俗や妙にバリッとしたファッション、それに当時デビューしたばかりのプログレ・ロック・バンド、オザンナが演奏する劇判など、見どころは多いです。そして何と言ってもピアッツァの女ネリーを演じるバーバラ・ブーシェの美貌ですよね。1967年の「007 カジノ・ロワイヤル」のマニーペニーもステキでした。終盤の警察署での尋問に集められた女性達はさほどでもない(おそらくわざとそうしたんでしょう)ですが、他にも結構な美人さんがちょいちょい出演しています。
オザンナは映画公開の同年、セカンドアルバム「ミラノ・カリブロ9」を発表しましたが、これは厳密には映画のサウンドトラックではなく、バカロフと共同制作したバンドの作品と言うべきでしょう。劇判とは異なるアレンジがなされており、劇中で使われた曲が入っていなかったりします。世の中的にはプログレとされますが、起伏が激しく、抒情的だと思えばハードにねじくれた呪術的/悪魔的なパートが顔を出したりするクセの強さがあり、のちのヘヴィメタルに通じる要素もあるかと思います。
2020年、「ファルコン イタリア警察特殊部隊」のトニー・ダンジェロが監督した本作の続編「Calibro 9」が公開されたそうです。ブーシェが引き続きネリーを演じ、ピアッツァとの息子フェルナンド(マルコ・ボッチ)が主人公なんだとか。確かにネリーは死んでないけど……どういうこと?
テーマ曲も引き継いでいるみたいですね。
【追記】
TVショーでのオザンナの演奏。