お互いにだけ心を開く、夫婦のような猫|きょうしろうとみどりの話
“いじめられっ子”だった猫の「きょうしろう」と「みどり」は、ほかの猫にちょっかいを出されては、いつも同じ場所に逃げていたふたり。
「今では多くの方に応援される8歳と4歳の、年の差夫婦のような2匹です」そう語るのは、東京の保護猫シェルターQUEUE(クー)の松本さん。
今回は、みどりちゃんのことが大好きなきょうしろう、“姉さん女房”のようなみどりについてお話を伺います。
いつも一緒のふたり。でも、時々うざったい?
ーー まずは、きょうしろうとみどりの関係性について教えてください。
きょうしろうとみどりは人間の夫婦みたいな関係です。
2匹とも野良の出身、そして猫嫌いという共通点があり、いつも逃げる場所が同じでした。
そしたらQUEUEに来てからも、ずっと一緒。あまりにも一緒にいるから常連さんからは“ペア推し”されるほどです。
今では多くの方が、夫婦のような2匹を応援してくれています。
ーー 夫婦のような2匹……どうして夫婦のようだと言われるようになったんですか?
2匹がQUEUEに来る以前のことは分からないのですが、同団体の別シェルターの方から仲が良いとは聞いていました。
だから、ここに来てしばらくは同じケージに入れていて。
慣れた頃を見計らいケージから出しても、同じキャットタワーの中で密着している、みたいな感じでしたね。
ーー 今日も一緒にいますか?
どうやら倦怠期のようで、最近は別々で過ごしています。
きょうしろうはキャットタワーのいつもと同じ場所にいるんですけど、みどりはキャットタワーのてっぺんにいますね。
ご飯の時間以外は別々に過ごしていて、きょうしろうは心なしか寂しそうです。
ーー きょうしろうとしては「みどりが帰ってこない~」という感じでしょうか。ケンカはよくするんですか?
ケンカはあまりないんですけど、きょうしろうがみどりに怒られたり、うざがられたり……はありますね。
きょうしろうはみどりが大好きだから、毛づくろいとか、アプローチをしすぎちゃうみたいで。みどりはそれを冷めた目で見ています(笑)。
最近やっと一緒にいる時間が増えてきたので、もうすぐ仲直りかなとは思っています。
ーー人間の夫婦にもありそうな光景ですね(笑)。
そうなんですよ!「実家に帰ります」って出ていった奥さんの帰りを待つ旦那さん的な。
人間の夫婦も、女性がいつも我慢して我慢して…ポンって爆発することが多いイメージがありますが、ふたりも今そういう状況なのかなって。そう考えると面白いですよね。
前のシェルターでみどりは「みどり様」「みどりさん」とか呼ばれて姫のような扱いでしたが、最近はすっかり姉さん女房の風格です(笑)。
“依存”ではなく“自立”しながら同じ環境を楽しむ
ーー きょうしろうが尻に敷かれているんですね。前のシェルターから一緒だったと伺いましたが、譲渡されるとき「2匹一緒がいい」など希望はありますか?
わたし個人の気持ちとしては2匹一緒だったら嬉しいなって思いますが、譲渡の条件に加えていません。
もし猫を2匹飼いたい方が、きょうしろうかみどりに一目ぼれして「もう1匹どうしよう」と悩むなら「この2匹は仲良しです」とお伝えしますが……。
1匹しか飼えない方も多いので、必ずしもペアで譲渡する必要はないと思っています。
ーー なるほど。 今のお話で2匹の関係性がよりクリアになるというか……“依存しあっていない”感じが、お互いに心地いいのかもしれないですね。
いつも一緒で「このコたちは絶対一緒のほうが楽しいだろうな」と思うコたちだったら、私も「ペアで引き取ってほしい」とお願いします。
でも、きょうしろうとみどりは、ある程度2匹とも自立していて、1匹でも自由気ままに生きていけるタイプ。
どっちかがいないとダメという関係性ではなくて、この環境でつるむのが楽しいから一緒にいるんだろうと思っています。
だから、選択肢としては「1匹で飼う」か「ペアで飼う」のどちらかかな。
猫の幸せは「兄妹猫と一緒」より飼い主とのコミュニケーション
ーー 「兄妹だから一緒に引き取って」など団体側の想いみたいなものが出てしまう瞬間ってあると思うんですけど……その点、松本さんはいい意味で割り切っていますね。
うーん、複数頭で飼うメリットや、仔猫だったら兄妹一緒のほうが飼いやすいことは理解しているのですが、必ずしも多頭飼いが正しいとは個人的に思っていなくて。
もともと猫は単独行動の多い動物です。だから、飼い主さんと適切なコミュニケーションがとれていれば、1匹での譲渡でもストレスにはならないと思っています。
ーー では、先住猫がいる方への譲渡の場合はどうでしょうか。
先住猫がいて2匹目を希望している方への譲渡は、すごく慎重になりますね。
わたし自身、過去に多頭飼育で苦い経験をしているので「安易に受け入れないで」と丁寧に説明したうえで譲渡します。
ーー 多頭飼育の苦い経験とは、どんな経験をされたんですか?
兄妹猫2匹を引き取ったとき、大人になるにつれて仲が悪くなったことがありました。仔猫のうちは仲良しだったんですけど、1歳を過ぎたあたりからケンカが増えて。
以前は“兄妹猫は離さないほうがいい”という考えでしたが「兄妹でも相性の良し悪しはある」と身をもって学びました。
だから、譲渡前に希望者さんと話しをするときは、兄妹で引き取るメリット・デメリットの両方を伝えています。兄妹猫だからといって必ずうまくいく保証はないので、私から「一緒に引き取って」とお願いはしません。
飼う前に知ってほしい「いいコ」=「都合がいいコ」ではないってこと
ーー たしかに。猫にもつらい思いをさせますしね。
譲渡した猫にとって1番不幸なパターンは、大好きな飼い主に捨てられる、保護施設に返されることです。
安易に「かわいいから」と引き取って、いざ飼ってみたら「思っていたのと違った」とか…そんな理由で手放される猫たちを、今までたくさん見てきました。
だからこそ、事前にお伝えできることは多いはずです。猫を飼うと大変なこともあるけど、嬉しいこともいっぱいあるよって。
ーー 最後に、きょうしろうとみどりはどんな人にお迎えしてほしいですか?
人慣れしていない猫と暮らせるかどうかは、飼う人の覚悟しだいだと思います。
「飼いやすいか否か」という基準でみたら、人慣れしているコのほうが飼いやすいのは当然。人慣れしていないなりのデメリットもありますが、それも私たちの気持ちしだいです。
猫の魅力って、人間の都合なんておかまいなし、自由でマイペースなところ。
そういう猫の一面を理解し、受け入れてくれる人にきょうしろうとみどりを迎えてもらえたら嬉しいですね。
🐈 🐾
相手のことを干渉したり、自分よりも相手を優先しすぎたり。長い時間をともに過ごすと、いつの間にか依存的な関係性になっていることは、人間でもよくあることです。
心地よい関係性を続けるためには、ちょうどいい距離感と、自分の意思を持って行動できるマイペースさが大切。
今回、きょうしろうとみどりのお話から、人間関係を楽にするコツを教わりました。
執筆=佐藤ともこ(@tomocco18_neco)
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