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【図解コラム】スターリンクで注目の「衛星コンステレーション」 メカニズムを解説

スペースXの「スターリンク(Starlink)」を筆頭に、今後10年から20年で世界に大きな市場をもたらすとして注目を集めている「衛星コンステレーション」。
一体どんなシステムなのか。これまでの人工衛星とどう違うのか。そして地球上の私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのか……まだまだ聞き馴染みの薄いこのキーワードについて、図や表をつかってわかりやすく解説します。


多数の人工衛星が一体的に働く 衛星コンステレーション

低軌道の衛星コンステレーションのイメージ。IISEで作成。

コンステレーション(英: constellation)とは、英語で「星座」を意味する言葉。
衛星コンステレーション」とは、一定の軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、一体的に機能させるシステムを指します。
近年注目されているのは、下図のように地球上から200km~2000kmほど離れた低い軌道上に、人工衛星を十数機、場合によっては何百、何千機と打ち上げ、地球全体をカバーするように連携させる"低軌道・大規模”の衛星コンステレーションです。

人工衛星の軌道、低・中・高(静止)軌道。IISEで作成。
低・中・静止軌道それぞれの人工衛星。IISEで作成。

静止軌道から低軌道へ 注目を浴びる背景

衛星コンステレーションにおいて、衛星のサイズや数にこれといった定義はありません。

たとえば私たちがテレビでよく見る衛星生中継は、赤道上の高度3万6000km、いわゆる静止軌道に打ち上げられた5機ほどの放送衛星が、地球を全体的にカバーしながら映像を届けてくれています。
地図アプリやカーナビでおなじみのGPS(全地球測位システム)も、高度約2万kmから24機の衛星が位置情報を送ってくれます。
これらも立派な衛星コンステレーションで、何十年も前から私たちはその恩恵を受けて生活していたのです。

このように従来は、政府や軍主導のもと、中型~大型の人工衛星1機を5年~10年ほどかけて開発し、中軌道や静止軌道(高度2000km~3万6000km)まで打ち上げ、数機から数十機の衛星コンステレーションを構築するのが主流でした。

しかし2000年代から米国で民間による宇宙開発の商業化が加速します。
技術革新によって、低軌道まで人工衛星の打ち上げにかかるコストが1kg2000ドル程度(約30万円)と、80年代に比べて50分の1にまで低下しました。
さらにコンピュータやデジタル技術、製造技術の発展のおかげで、小さくて安い部品を使って、高集積、高機能な衛星が低コストで作れるように。また、一辺10cmほどの超小型衛星や、100kg~1000kg程度の小型衛星でありながら、実用的なミッションをこなせるものも開発されるようになりました。

このようにコストの障壁が下がったことを背景の1つに、低軌道において数百機、数千機の衛星を打ち上げて大規模な衛星コンステレーションを構築し、新たなサービスを市場に提供しようとする民間企業が次々と登場します。

その代表格が、イーロン・マスク氏が率いる米スペースXです。

衛星コンステレーション「スターリンク」は、高度約550kmに1万2000機の人工衛星を打ち上げ、地球上のどこでもブロードバンドのインターネット接続ができるようにするシステム。2020年にアメリカなど一部地域でサービス提供を開始し、2023年7月末時点で約5000機の衛星を打ち上げ済みで、日本を含む世界61カ国で利用可能となっています。
将来的には4万機以上を打ち上げる計画で、現在発表されている中でもっとも大規模な衛星コンステレーションです。

スペースXが「スターリンク」計画でロケットを打ち上げている様子(スペースX公式Flickrより)

ほかにもイギリスではワンウェブ(OneWeb)が、高度1200kmに6372機の衛星コンステレーションを築いて、世界中に低遅延の衛星通信を提供するサービスを計画。2023年3月末時点で618機を打ち上げ済みで、すでに一部の地域でサービスを開始しており、2023年末までに対象を全世界に広げるとしています。
中国も国有企業China Satellite Network Groupを設立し、同様にグローバルなインターネットサービスを目的に、最大1万3000機を打ち上げる計画を発表しました。

このように各国の企業や政府が低軌道における大規模な衛星コンステレーションの構築に乗り出す、大転換期がいまの宇宙産業に訪れています。

Keyword リーン・サテライト

低軌道の衛星コンステレーションには、主に重さ100kgから1000kg程度の「Small Satellite(小型衛星)」が用いられているとして、「小型衛星コンステレーション」と報じるメディアも多いです。事実、スターリンクの衛星も第1世代は約250kgでしたが、2023年から打ち上げている第2世代「V2 Mini」は約800kg、本体のサイズは約4.1m、太陽電池パネルを伸ばすと全長約11mとかなり大きくなっている上に、「V2」(Generation2、Version2)では1,2t級まで大きくする計画もあります。

こうした規模を「小型衛星」と呼ぶのは誤解を生むとして、最近は“1機あたりにかかるコストが非常に低い”ことが特徴である「Lean Satellite(リーン・サテライト、無駄なぜい肉のない衛星)」と呼ぶ人も増えてきています。

なぜ多く打ち上げる? 低軌道衛星コンステレーションの仕組み

しかし、打ち上げや製造のコストが下がったとはいえ、どうしてこれほど多くの衛星を飛ばさなくてはならないのでしょうか?

低軌道の衛星コンステレーションのイメージ。IISEで作成。

一番の理由は、地球との距離が近く、地表を照射できる範囲が狭いため。静止軌道ほど高い距離からだと3機、5機ほどで地球全体をカバーできましたが、低軌道となるとずっと多くの衛星が必要になってしまうのです。
 
また、低軌道では地球からの重力の影響をより強く受けるので、衛星が落ちないよう回り続けるには、高軌道に比べて倍以上の速さを必要とします。地球の自転と同じ周期で公転している高軌道衛星が地球からだと止まって見えるのに対し(だから“静止”衛星と名付けられています)、低軌道の衛星は地上からだと動いているように見えるのです。
 
そのため、たとえばある地点にインターネット通信用の電波を飛ばしたくても、低軌道衛星が数機しかないと上空をすぐに通り過ぎてしまい、通信が一定時間しか利用できなくなってしまいます。
こうした事情から、より多くの衛星を打ち上げ、1つの衛星が上空を通り過ぎたら次の衛星に切り替えることで通信を途切れさせないようカバーするーーといった仕組みで、1つのシステムを構築しているのです。

得意なのは「通信」と「地球観測」 期待されるビジネス分野

低軌道で展開するがゆえ、メリットもさまざまです。
地表に近いとなると、衛星と送り合う電波の強度が高く、広帯域化もしやすくなるので、遅延が少なく、大容量で、高品質(安定した)な通信が可能になります。
また地表をより高い解像度で観測することができます。
そのため低軌道衛星コンステレーションは「ブロードバンド通信」と「リモートセンシング」の二分野を中心に、社会にこれまでにない高度なサービスをもたらすと期待されています。

Keyword リモートセンシング

遠く離れたところ(リモート)から、対象物の形や性質を触れずに測定する(センシング)技術。一般的に人工衛星から電磁波を利用して、地球上の自然現象や災害、人の営みなどを観測する際に用いる。

低軌道衛星コンステレーションが地上の生活にもたらすもの。IISEで作成。

一方で静止衛星に比べて運用年数が短いため後継機を追加で飛ばさなくてはいけない、通信する衛星を切り替えるタイミングで途切れる可能性あるなど、デメリットも抱えています。

静止衛星と比較した長所(メリット)、短所(デメリット)。IISEで作成。

低軌道かつ大規模な衛星コンステレーションの構築に多くの企業が乗り出しているものの、開発・打ち上げや運用にかかるコストを回収するようなサービスはまだ登場しているとはいえません。世界に新しい市場をもたらす価値がこれらの衛星群にあるのか、実証実験の段階にあるのが実情です。
それでもインターネットの黎明期のように、グローバルなプラットフォームを活用して革新的なサービスが市場から次々と生まれ、ゆくゆくはインターネットと同様の生活インフラになるのではないかと、多くの期待が寄せられています。
 
企画・制作:IISEソートリーダーシップ「宇宙」担当チーム
取材協力:三好 弘晃(NECフェロー)
文:黒木 貴啓 編集:ノオト イラスト:小峰浩美


参考文献

・KPMGコンサルティング監修(2023).『日経ムック 宇宙ビジネス最前線』.日本経済新聞出版
・宇宙ビジネスで生まれる巨大な市場(KPMGコンサルティング ディレクター 宮原進)より
・JAXA.”様々な人工衛星”.サテナビ.
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/satellite-knowledge/whats-eosatellite/satellite-type/index.html
・宇宙通信政策課.” Beyond 5G の実現に向けた宇宙ネットワークに関する技術戦略について”.総務省国際戦略局. 2022年1月28日.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000790343.pdf
・スペースX、スターリンク衛星「V2 Mini」の打ち上げ成功(Starlink Group 6-10) | sorae 宇宙へのポータルサイト
https://sorae.info/ssn/20230818-sl6-10.html
・Stephen Clark”SpaceX unveils first batch of larger upgraded Starlink satellites”.SPACEFLIGHT NOW.February 26, 2023.
https://spaceflightnow.com/2023/02/26/spacex-unveils-first-batch-of-larger-upgraded-starlink-satellites/
・鳥嶋真也.”世界中にインターネット提供へ、衛星通信会社「ワンウェブ」の衛星群が完成”.TECH+.2023/04/04. https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230404-2644441/

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