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今こそ環境課題に向き合うとき

国際社会経済研究所(IISE)は、世界の知の集積で未来の社会価値創りをリードするNECグループの独立シンクタンクです。社会課題と向き合い、「未来の共感」を創るために、実現への道筋を「Thought」として提示し、社会イノベーションを通じた新たな価値の創造と社会への実装を目指す活動を「Thought Leadership活動」として取り組んでいます。IISEが取り組んでいるThoughtのテーマの1つに「環境」があります。環境 Thought Leadership活動を担当する野口聡一理事に、私たちが直面する環境課題について聞きました。

異常気象がニューノーマルの時代に


私は宇宙飛行士として3回の宇宙飛行を重ね、宇宙から地球を俯瞰する仕事をしてきました。いろいろと貴重な経験をしてきましたが、最初に宇宙に到達したときに、無重力の世界に包まれて、目の前にぽっかりと浮かんでいる地球の姿が、今でも印象に残っています。これは何年経っても忘れられない光景です。

その私が、今、最も関心を寄せるテーマの1つが「環境」です。世界経済フォーラムが発行した『グローバルリスク2023報告書年版』で、今後10年後に起こりうる長期的なグローバルリスクのトップ10のうち、6つが環境に関連するものでした。

人類はウクライナ情勢をはじめとする地政学上の課題、サイバー犯罪などのテクノロジーに関連する課題など、様々な課題を抱えています。それらの課題も重要なものですが、中長期的な視点から見ると、環境関連の課題が最重要であるといえます。

国連のグテーレス事務総長は、2023年7月27日の記者会見で「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来しました」と述べました。実際、この夏の日本の平均気温は気象庁が統計を取り始めてからの125年間で最も高かったといいます。

また、今年8月に発生したハワイ・マウイ島の山火事は、気候変動によって、強風、乾燥など、これまでこの地域では見られなかった気象状況となったことや、外来植物の繁殖などの環境変化が被害を拡大したと考えられています。世界中で起こっている気象の変化は、少し前までは異常気象と呼ばれてきましたが、今やその状態がニューノーマルになってきているのかもしれません。

環境課題は政治・経済、私たちの生活と深く関係している


私たちが対処しなければいけない環境課題は異常気象に留まりません。気候変動の緩和や適応はもちろんですが、防災、資源枯渇、生物多様性など、多岐に渡ります。このような環境課題が政治やビジネスの場などで語られるときは、総論賛成、各論反対となりがちで、議論が後ろ向きになることがままあると感じています。目先の利益を得たり、課題を解決したりするために、中長期的な視点が必要な環境課題への対応が後回しになってしまわないかと、少し心配しています。

一例として、生物多様性の損失と回復という課題を考えてみましょう。この課題への取り組みは、単に希少価値のある動植物を守るだけではありません。動植物を守る取り組みは、資源を守り、地球温暖化を緩和させる方策となります。これは私たち、地球人類の存亡にも密接に関わっているのです。

英国財務省が発表した『生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー(The Economics of Biodiversity: The Dasgupta Review)』の中で著者であるケンブリッジ大学のダスグプタ教授は、「人類の経済や幸福などは自然に依存し、人類の繁栄の達成は自然環境に壊滅的な犠牲を強いてきた」と述べています。既に自然からの供給力は、人類が必要としている需要を大きく下回っています。自然との持続的な関係性を維持するためには、私たちの考え方、行動、経済的成功の測定方法を変える必要があります。

先ほども触れましたが、生物多様性の課題に取り組むことは、資源枯渇、地球温暖化といった他の環境課題にも影響を与えます。それだけでなく、政治、経済、健康、文化など、様々な分野にも影響をもたらすことでしょう。これは他の環境課題についても同様です。気候変動、資源枯渇といった環境課題は、政治や経済をはじめ、私たちの生活に密接に結びついています。つまり、環境課題は政治や経済にも大きな影響を与えるもので、後回しにはできない喫緊の課題なのです。


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