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サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブ

こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)の篠崎裕介です。ネイチャーポジティブとデジタルの可能性について情報発信をしています。

この記事では、2023年7月27日にLoftwork COOOP10でロフトワーク社主催のもと開催された「シリーズ|生物多様性と経済Vol.2 共生する循環経済の仕組み構築に向けて、ゲスト:住田孝之(住友商事グローバルリサーチ 代表)」に参加して感じたことを発信します。


循環経済/サーキュラーエコノミー

今回のテーマは循環経済(サーキュラーエコノミー)です。大量の資源を地球から採掘し製品・サービスを作り出し廃棄してきた大量生産・大量消費の経済モデルによって、環境・経済の両面で限界を迎えています。

「資源の利用量および環境への影響」と、それによって得られる「経済成長および人間の幸福」との関係を切り離すデカップリングが求められます。それぞれ資源デカップリング、影響デカップリングと呼びます。

これらのデカップリングを実現する経済モデルがサーキュラーエコノミーです。製品ライフサイクル(調達ー生産ー流通・消費ーリサイクル)のあらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図り、環境負荷を低減しながら、付加価値を最大化を図ります。

上記の図は、サーキュラーエコノミーを実現するための手法を俯瞰的に描いたバタフライ・ダイアグラムと呼ばれるものです。再生可能な生物由来素材やエネルギーなど地球環境への負荷が低い資源の利用にシフトし、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)だけでなく「サービス化」や「シェアリング」などの手法も取り入れ、デジタル技術を適切に活用することでデカップリング(切り離し)を実現させます。

東海サーキュラープロジェクト

プレゼンテーションを行うロフトワーク小川氏(左)

今回のセミナーでは、最初にOKB総研、ロフトワークらが中小企業知的財産支援事業のもとに行った「東海エリアにおけるサーキュラー・エコノミー実践促進活動を通じた知的財産促進推進事業プロジェクト」の紹介がありました。ゲストの住田孝之氏は、このプロジェクトでアドバイザリーボードメンバーでもあったそうです。

本プロジェクトの取り組みについては、上記のサイトに様々な記事としてまとめられていますので、詳細はそちらに譲りますが、ロフトワークの小川氏が「どうありたいか」という話をしていたのが印象に残りました。

私の解釈も入りますが、以下のようなお話でした。

プロジェクトで対話をする中で、「自然の摂理、循環型の摂理の中で、経済活動を行うこと。この循環の仕組みづくりこそ価値創造となる。自然の活用は有償であり、生産・使用を通じて自然の再生が必要である。しかしながら、これを実現していこうと思ったときに、生物多様性の回復は誰がやるのか?という問いがうまく解けなかった。

このとき「誰が」と言っていた時点で、人間が中心になっていて、人間はどこまでも自然をコントロールできると考えている。それはおごりではないか?という議論をした。我々は自然の一部。何を解決するか、ではなく、どうありたいか、を考えることにした。

セミナー会場では、手元に、本プロジェクトの成果物の一つのとても素敵なタブロイド紙が配布されていました。その最後のページのEpilogueの中で以下のようにVisionが語られていました。

Tokai Circular Society 2030 Vision 自然との共生による循環社会の実現。自然というエコシステムは、完璧な循環を最も小さなエネルギーで動かしている。自然の摂理、自然の循環、地球の修復の能力を超えるような人間の活動は生態系の破壊を招く。エコシステムの中に、我々がその一部として入り込み、縮減の中で、再生し続ける、繰り返し生み出す循環の仕組みをつくり、活動そのものを再構築する。Tokai Circular Society 2030 Visionは、2030年までに「自然との共生」を目指し、そのための循環型の社会及び経済システムを自然というステークホルダーと共に構築していく。

タブロイド紙、Epilogueより引用、太字装飾は筆者による

本シリーズセミナーの1回目のゲスト京都大学 広井先生は、これからの資本主義を考えるうえでのキーワードは「生命」と「時間」の2つだといいます。自己を超えたところで、ウェルビーイング(幸せ)につながっていくことお話されました。

モノがあふれ、情報があふれる中で、自分自身の時間をより豊かな体験のためにつかいたい、という考えに向かっていく。これを広井先生は「地球倫理」と呼び、「地球環境の有限性や多様性を認識しつつ、個人を超えてコミュニティや自然、生命、その根源にあるものとつながる」ような志向だとしています。

前回のセミナーのレポート記事は以下をご参照ください。本記事の最後にもリンクをはっておきます。

トーク「共生する循環経済の仕組み構築に向けて」/住田氏

プレゼンテーションを行う住田氏

今日は、大きな話しをしたい」という言葉で住田氏のトークはスタートしました。一人ひとりの活動をより大きなものにしていくために、アプローチの問題を取り上げました。

講演の内容を私なりにまとめたものが以下となります。これは、目の前の問題に取り組むのではなく、そこからより高次の大きな問題の構造をとらえて、解くべき課題をどのように設定して行動に移すかが重要である、という指摘だと考えます。サーキュラーエコノミーとは、あるテーマが持続可能であるか?と考えるときに、一歩引いて、ものごとをとらえるための型として機能するということでしょう。

住田氏は、「サステナビリティに関する不都合な真実」として、野生の哺乳類と人間や家畜などの重量の比率、人工物と地球上の生物の重さ、などの数値データをもとにアンバランスになった地球と人間の関係を示します。

その上で、欧州の人たちは、この不都合を人間が戻さないといけないと考えがちだが、人の数は急に減るわけでもないので、できるだけ生態系に迷惑をかけないようにすることと、自然の恵みをつかったら「お返し」をする、というように自然本位から考えるのがサーキュラーエコノミーの本質ではないか、と会場に問いかけました。

Editor’s Opinion

セミナーではこの後、登壇者同士の対話や、会場からのQAなどが行われました。本記事では、住田氏のお話にあった、より大きな視点からアプローチを考える、について考察したいと思います。今回のセミナーは「生物多様性と経済」と銘打たれていますので、生物多様性という視点から考えたいと思います。

生物多様性と経済学

ここで「生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー」を紹介します。このレポートは2021年2月に英国財務省から発行されたもので、経済学者でケンブリッジ大学名誉教授のパーサ・ダスグプタ氏が執筆しました。

このレポートでは、大きく以下の3点の重要性が示されています。

1.人間の需要が地球の供給能力を上回らないこと 環境指標エコロジカル・フットプリントでは、人間の需要が地球の供給能力を70%超過している。

2.経済的成功の基準を変化させ、自然資本を含む「包括的な富」を指標のひとつにすること。 1992~2014年の間に、人工資本は2倍、人的資本は13%増、自然資本は40%減少している。

3.金融と教育のシステムを変革する   
  金融や教育の制度のなかに自然を組み込む。

ダスグプタ教授が示す「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー」3つのポイント

WWF, 2021/6/30より引用

このレポートの中で、「インパクト不均等」という図があります。インパクト不均等とは、私たち人間が、自然を使用する速度とその再生速度の間にあるギャップのことです。

この図で、水道の蛇口にたとえられているものが生物圏・自然の再生の速度です。これに対して、地球の下に空いている穴が、自然を使用する速度です。経済学の言葉で、これをエコロジカル・フットプリントと呼びます。なんらかの経済的な活動をするときに、自然を利用するかを表します。

カーボンニュートラルでは、ある製品をつくるときに、どれだけ温室効果ガスを排出するかをはかる指標として、カーボン・フットプリント、という言葉がありますが、それをより広い範囲でとらえる必要がある、ということでしょう。

ネイチャー・ポジティブに求められること

現状、自然資本は、どんどん失われて行っている状態であるとされています。これを逆転させるネイチャー・ポジティブとは、このインパクトの不均等を、供給(自然の再生)が需要(自然の使用)を上回る状態にもっていくことにほかなりません。

ダスグプタレビューでは、そのために人間ができることは以下の4つだとしています。

1.世界全体の1人当たり消費量を削減させること
2.世界人口を現水準から減少させること
3.生物圏が供給する財・サービスを世界総生産に転換し、廃棄物として生物圏に戻す一連のプロセスの効率性を向上させること
4.保全・回復によって自然へ投資を行い、自然ストックと生物圏の再生率を高めること

「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー」和訳, WWFジャパン, 2021より引用

1,2は、特に2.はネイチャー・ポジティブという言葉からは直接的に連想しづらいものでしたが、今回の住田氏の「大きな視点」から考えれば、当然入ってくるテーマとなるでしょう。

3,4はつながりのある項目でしょう。3.は生産の効率を高めるだけではなく、廃棄のプロセスも含めてライフサイクル全体での効率を高めることです。4.は自然の力を高めることで、3.の生産の効率、廃棄物が自然に戻る効率のどちらにも影響を与えると考えられます。

鍵は見える化

ここで重要になってくることは、効率が高まっているかどうかを把握するために、企業間のサプライチェーンをまたがるだけでなく、自然をも含むライフサイクル全体をとらえる必要がでてくる、ということです。

鍵はデータによる見える化でしょう。企業単体で考えても、これまで取得していなかったようなデータを取得する必要性がでてくることもそうですが、実際に企業間をまたがってデータを連携するには様々な課題があります。異なる考え方にもとづいて管理されたデータの相互運用性の確保や、データ自体が改ざんされていないか(真正性)の担保といったものです。

先行して、カーボンニュートラルにおいて事例が出てきています。

JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が事務局を務めるGreen x Digitalコンソーシアムの見える化ワーキンググループでは、サプライチェーン上のCO2データ見える化の実現に向け、仮想サプライチェーン上でCO2データ連携を行う実証実験に成功しました。本実証実験は32社による共同実証であり、グローバルレベルで業界横断的にCO2データ交換を実現することを視野に入れた日本では初めての試みです。

おわりに

このように、デジタル技術を活用することで、自然の中の一員としての人間が、自然を持続可能に使用できているのか、適切な「お返し」ができているのか、といったところまで、範囲を広げていくことが地球と共生して未来を守ることにつながると考えています。

本セミナーでは、養蜂家を営みながらデザイナー・アーティストをされている方からの現場感のある問いかけや、サステナブル・ツーリズムに取り組む方、地方でコワーキングスペースを運営されている方、大企業で製造のシステムをネイチャーポジティブにすることに取り組む方、リモートセンシングで見える化に取り組む方など、多様な方が参加されていました。

そういった方々との対話からも多くの気づきを得ることができました。本セミナーの第3回は、「自然資本投資と評価指標のこれから」をテーマに京都で開催されるとのことです。

前回の記事の紹介

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