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近況

パソコンの前に座って仕事をしていると
物語がやってきた
とりあえず手を止めて
この珍しい客人を迎え入れる

ポツリポツリと
身の上を聞いている内に
やがてお話は大きくなってゆき
(この忙しいときに限って)
と呟きながらも
僕は興奮を隠せないでいる

気が付くと
物語は僕の頭の中を完全に仮住まい
道を歩いている時も
食事をしている時も
物語は自身を物語ることを止めない

(困るよ 本業がおろそかになってしまう)
やるべきことのリストを眺めつつ
(それにこれからお客さんが来るんだ)
でも 客人をていねいに迎え入れるのは僕の仕事か
相手が人間でなくても――
なんて言い訳しつつ
パソコンに物語を書きとめてゆく


桜が満開になったちょうどその頃
物語がやってきた
とりあえず細心の注意をもって
この珍しい客人を迎え入れている

外に出て 
春の匂いを嗅いで
満開の桜を見上げて

(そうか 僕自身も芽吹き始めているのか)

絞り出しても絞り出しても
何も出てこない
ひからびた雑巾のようだった僕の中から……

湧いてきている
芽吹いてきている
僕を通って
新しい物語が生まれ出ようとしている
のなら それを大切に抱きとめたいと思う

という 近況のお知らせです

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