賽の河原のスモモ味
私は賽の河原で石を積んでいた。
ひとつ積んでは父の為。
もうひとつ積んでは母の為。
私は父の為に石を積むのも癪だったが、地獄の石積みはこういう決まりきったかけ声をぼそぼそつぶやきながらやるもので仕方なく呆けたように石を積んだ。
ある程度石が高くなればもう少しで結願だ。
私の気がかりは母だった。
とにかく母の為になるならば。
私はひたすら死にものぐるいで毎日石を積んだ。
その小暗い地獄の日々。
三途の河原で川の音がすすり泣くようだ。
死者をあざ笑う鬼の声。
「あんた、やってるかい?」
三途の川の奪衣婆がやってきた。
「ひまでひまで、どうしようもないよ。やんなっちゃったねぇ。」
婆はあくびをしながら私のそばにしゃがみ込んだ。
「おお、かなり積んだじゃないか。」
婆は嬉しそう、にたりと笑った。
皺だらけの顔が笑うと口が耳まで裂けて牙がのぞいた。
私は婆が笑う度みえる牙が羨ましかった。
そんな牙があれば生前、父に噛みついてやれたものを。
「どれどれ。」というが早いか婆は私が積みあげた石を手でなぎ払った。
ガラガラ崩れる石の塔。
私は舌が抜かれて喋れないので黙っていた。
婆が来た時からどうせ石塔は崩されるものと覚悟していた。しかし、実際崩されてみるとなんとも口惜しく、私は唇を噛んで涙を流した。
「ほらほら、泣くんじゃないよ。」
婆は私の手のひらに何かを持たせた。
涙で曇る目でみるとサクマドロップスが4個のっていた。いちご、パインアップル、スモモがふたつ。私はスモモ味が1番好きなので涙が止まった。
「それでもなめてまたがんばんな。」
婆は去っていった。
私はさっそくスモモ味を口に入れた。
舌は抜かれたが魂はスモモ味を感じ取れるので魂でスモモ味を堪能した。
奪衣婆も悪い人ではない。
仕事だから私の積んだ石塔をぶち壊すんだよな。
地獄なんだから。
楽な事など何もない。
苦行こそが存在の証明。
私は奪衣婆におやつをもらって結構よく地獄生活をうまくやってるじゃないか。
そして、またひとつ積んでは…母の為…。
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