秋(3)
お母さんの運転する車の助手席で私はおじいの思い出をなぞった。
秋になり、空気が冷たくなってくると山の匂いは濃厚になる。
あれは、きのこを両親と採りに行った時だった。かなり記憶は薄れている。
幼い私は両親のやりとりを後部座席できいている。
それから、ひとりで私は山で泣いている。
私が山で泣いていると、どこからかおじいがやってきて私と手を繋いで家に連れかえってくれた。
私がまだ3歳くらいの時だ。
まだその頃は私にはお父さんがいて、お母さんと私と一緒に山のおじいの家に遊びに来たのだ。
そして私達家族はで山できのこ採りをしようという事になって、おじいにきのこが出ている場所を教えてもらって山へ入った。
きのこが採れるとなぜか、お父さんとお母さんは私を忘れて2人だけで山を降りた。
家に帰るとおじいは「お菊はどうした?」とお母さんに訊いた。
お母さんはそう言われて山に私を置いてきた事に気がついた。
「あっいけない。山に置いて来ちゃった。わぁどうしよう。きのこがいっぱい採れたからきのこに気を取られて…どうしよう。お父さん。」
それをきいたおじいは怒った。
「バカ!自分の子だぞ!何があっても忘れるんでねえぞ!」おじいは言うが早いか軽トラに、飛び乗り山のガタガタ道を走らせた。
おじいは山の中を私の名を呼びながら歩き回った。枯れ葉の積もった山の中は湿った土の匂いがした。
枯れ葉の中に岩場があり、沢が流れていた。
私はそこで沢蟹を見ていたのだ。
小さな小さな蟹が石をどけるとサッと動いて、それが可愛くてじっとみていた。
気がつくとお父さんもお母さんも近くにいなかった。いくら呼んでも誰も返事をしなかった。
(置いていかれた!)
私はそう思った途端に泣き出した。
しばらくわんわん泣いて、泣きすぎて疲れて、後はよく覚えていない。
それから、おじいがどこからともなく現れて「お菊ー!かわいそうになあ、帰るんべえな。えらい酷え目にあわされたなあ。」
おじいは私の手を握って言った。
おじいの身体からはいつも吸っている煙草のハイライトの匂いがした。
おじいはいつも胸ポケットにハイライトとライターを入れているのだ。
「おじい。お菊はここで死んじゃうかと思った。」
「何の何の。お菊は死にゃあしねぇよ。おじいが助けに来たろうが。」
「お父さんとお母さんはなんでお菊を置いてった。」
「なんでかなぁ。あいつらは注意力不足で、自分達の事しか頭にねえだんべ。だから、ようするにちょっとバカなんだいね。お菊許してやれい。」
私はまだ泣きながら(許せない)と思ったがおじいにそう言うとおじいがかわいそうな気がして黙っていた。
家に帰ってからお母さんが作ったきのこ汁を皆で食べた。
お父さんはビールを飲んでおじいと喧嘩をした。おじいとお父さんは取っ組み合いの喧嘩になって食卓の上のおかずは全部畳の上にぶちまけられ、襖は破れた。
それ以来、お父さんはおじいに会わなかった。