見出し画像

ラーメン猫おやじ2🐾スープの秘密


若くんはひさしぶりに夜の外出をしました。街灯の下をとぼとぼ歩くと現実感がありません。若くんは重症の不眠症になってしまい、自宅療養をしているのです。
若くんは恋人のミケちゃんと一緒に棲んでいます。
若くんは仕事も休職して毎日ミケちゃんが出勤するのを見送るのもつらいのでした。
ミケちゃんはスナックで働いています。
夜の時間、ミケちゃんは今頃働いて、それにひきかえ僕は眠れなくて神経症にまでなって申し訳ないなあ…ああ、どうしよう。と自責の念が湧くのを止めようがない若くんなのでした。それでも今日はミケちゃんに「たまには外出して夕ご飯外で食べたらいいじゃない!気分転換になるかもしれないしね!ちょっとは運動しないとだめよ!」と励まされ
ひさしぶりにラーメン猫おやじで醤油ラーメンを食べよう、という気になったのでした。
店の戸をガラッと開けるとお客もなく親父さんの姿もありません。
明かりと鍋の湯気はもうもうと立ち込めています。
「親父さーん。親父さーん。すみませーん。」若くんは奥に向かって声をかけました。奥ではひとの気配がするので親父さんはいるはずです。

奥の厨房では、親父さんが深く考えに沈みながらスープを見つめていました。
親父さんは寸胴鍋の前で前かがみになり汗をポタポタ落としていました。
そこへ若くんが覗きにきました。
若くんは、何度呼んでも親父さんが出てこないので厨房まで入ってきたのです。
若くんは今日は何がなんでもおやじさんのラーメンが食べたかったのです。
しかし、くたびれた表情のおやじさんは寸胴鍋に夢中できがつきません。
次々、親父さんの汗が寸胴鍋に落ちます。
若くんは黙って店をでました。

親父さんの汗ラーメン

若くんは大好きな醤油ラーメンを食べるのを諦めました。
いかに美味しいラーメンでも親父さんの汗が隠し味に入っているのです。
親父さんはいつもあんなに汗をスープにたらし込んで作っていたのだろうか。
親父さん、すごく苦しそうな様子でスープを作っていたな。
ラーメン屋をやっているのがつらいのだろうか。若くんは親父さんの苦しみが自分に伝わって来るような気がして、心細くなり半泣きになりながら家路をたどりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?