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小田急線

小田急線に揺られて、あの子と行った下北沢をふと思い出した。

似たような服ばかり手に取って
「可愛くない?買っちゃおうかな」
僕の方を見ながら、服を体に当てて見せてくるあの子。
右側のおくれ毛だけアイロンが下手なあの子。
古着と音楽のイメージしか無かった僕に、下北沢はスープカレーが美味しいって教えてくれた。

「今度私が連れてってあげるね」

結局、あの子が言ってた「今度」は来なかったけれど。

最寄り駅まであと2駅。

あの子のことを思い出すのは、次の駅までにしようと思った。
残りの1駅は今日の夕飯のことを考えたい。
そして、つまらない中吊り広告なんてぶら下げるから感傷的になるきっかけができるんだと小田急線のせいにしてみた。
でも、僕がつまらない人間だからあの子はどっかいってしまったのかもしれないとも思った。

少しずつ次の駅に近づいていく。
ブレーキがかかり始め、揺れも徐々に小さくなってきた。
急に止まることはなく、少しずつ少しずつスピードを弛めていく。
まるで、僕があの子のことを考える猶予を与えてくれているようだ。
揺れがピタリと止み、車内アナウンスが流れた。

「もうあの子のことを考えるのはやめよう」

おかしなルールで縛りつけないとキリがつかない自分が弱くて情けなくてダサくて笑えた。
もし、僕がこのことを話したらあの子もきっと笑ってくれたと思う。

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