地震!そのとき

 いよいよ二学期も終盤である。授業は期末考査に向けた復習に入っている。
 生徒らが一問一答の問題プリントを黙々と解いていると、廊下側の窓が突然ガタガタと鳴り出した。
 「風か?」
 誰に問いかけるでもなく、私は独り言ちた。このところ急激に寒くなり、先週などは風が吹きすさんでいた。感染症対策として廊下の窓は開け放たれており、風の強い日はウォークイン冷蔵庫のように冷風が吹き込んでくるのだ。しかし今朝は気温こそ低いが、冬晴れの穏やかな日和だ。
 「地震!」
 女子生徒が叫ぶわけでもなく、しかしよく通る声で言う同時にグラグラっと縦揺れとも横揺れともつかない主要動が来た。視界がゆらゆらする。
 ついに来たか!頭によぎるのは南海トラフ。早朝には山梨で震度5弱の地震があったのだ。
 しかし生徒らは落ち着いていた。私の「頭守ろか」の指示を聞くのも待たず、誰からともなく机の下に潜り始めたのだ。
 え!?早ない!?
 あまりの手際の良さに揺れの最中にも関わらず一瞬見とれてしまったが、我を取り戻し教室の扉を開けに動き、改めて教室を見渡すと一人残らず机に隠れているではないか。
 スゲェなこの子ら!最近は防災教育も進んでるって聞いてたけどここまでとは!と思い、隣の教室を覗いてみる。
 なんと!一人残らず普通に椅子に座っているではないか!なんでやねん!!
 揺れは体感で5~10秒ほどだったろうか。収まったタイミングで、こちらの教室の生徒らはお互い顔を見合わせ、大袈裟だったねとハニカミながら机の下からゆっくりと出てきた。
 いやいや、大袈裟なんかじゃない。今のが大地震本番だったとしても何ら不思議ではないのだ。
 授業を再開させるにあたり、よく動けた!と褒めたたえ、演技を交えて隣のクラスの様子を再現して軽く笑いを取って、改めて問題を解くように促すと、ざわつきもそこそこに生徒らは再びペンを動かし始めた。