自己肯定感の有無って遺伝子レベルで刻まれてない?気弱な自分も認めてよ。

先日、友人から「彼女にフラれた。もうダメだ」と連絡が来た。私と同年代のその友人は年下の恋人とお付き合いをしていたらしく、以前会った折も、恋人が可愛くて仕方ないが自分は年上だし魅力もないしこんな関係続くわけがない、いつかフラれてしまう、と弱々しく語っていた。そのタイミングが来てしまったということだ。

「もう30だし仕事もうまくいってないしこんな自分に次の恋人なんてできるはずがない」

と言われてどう言葉をかけようもんか、と考えあぐねた。第三者としてはその友人は整った顔立ちをしているし健康体そうだしうまくいってなくてもちゃんと仕事をしている、だがそんな私から見た視点なんてその友人にとってはなんの慰めにもならないだろう、と思いながら口をつぐみさめざめと泣く彼の話を聞いていた。

まぁ、正直自信がないなら自分磨きをすればいいし、コミュニティを広げたいなら趣味を作ったり新しい場に出向けばいいし、仕事もうまくいってないなら自分なりに出来ることはあるだろう。そういった前向きな事実に目を向けられないのは、フラれてしまったゆえの喪失感か、元々持ち合わせている自己肯定感の低さか、どちらが強いのだろうか。

自己肯定感という言葉は物心ついたころからよく耳にしていた。日本人は自己肯定感が低い、もっと自己肯定感を持とう、など勝手なことをよく言われるため、この言葉に正直あまり良いイメージはない。ちなみに日本では1994年に提唱された言葉らしい。同い年やんけ!ようこそ、ハロー、日本へ、自己肯定感。あまり歓迎はできないよ、だってそんな概念、日本になかったんだもの。

自分含め周りを見渡してみても、あまり自信満々で自己肯定感が圧倒的に高い人は日本で見かけない。本当に、遺伝子レベルで組み込まれてるのでは?ってくらいに、見かけない。

が、数年前見かけたとあるアーティストの配信でたまげたことがある。

そう、そのアーティストとはSKY-HI。なんだこのナチュラルボーンマックスハイ自己肯定感な逸材は…!と目を見開いた。コロナ化でのアイディアとはいえ、実家・両親も出演、まさに俺のルーツも全て含めて今の最高な俺なんだぜ!という自己生成のやべえ脳汁ドバドバさを感じた。えーと、褒めてます。本当に。これができる人間なんてそういないからね。

AAAはもちろん知っているものの、あまり触れてこなかった私からすると、今や大人気ボーイズグループBE:FIRSTの創始者というイメージが強い。彼らが所属する事務所BMSGのCEO。

こんなことをしでかす彼が作るボーイズグループなんて、どんな風になるんだろう?と思っていたが、最初から世界を目指すと宣言し、まさにSKY-HI要素たっぷりの世界観を構築したグループと成長していった。

当初から一貫して彼等の強い意志が強調され、どんどん上へ昇っていく、高みを目指す、といった歌詞が楽曲の中にも多い。この年代のボーイズグループとしては珍しくストレートな恋愛モノの楽曲が表題曲としてあまり出てこないのも特徴だろう。

勝者の哲学を体現する彼ら。媚びない、虚わない、いつだって前を向きステージを確実に上がっていく。そういう姿勢も必要ではあるが、正直凡人である身からするとそればっかりでは少しばかし疲れてしまう自分がいる。遺伝子に合っていない気がするのだ。アルコールを分解できる酵素が少ないのに、毎日テキーラ山盛り飲んでる、みたいな。

もっと等身大で、弱い自分を認めるのも、自己肯定感なのでは?と思った私は、小学生の頃好きだった嵐を思い出した。国民的グループだった嵐。なのになぜか、親近感が湧いてしまう彼らは、圧倒的理想体を背負うBMSGの世界観とは随分違う。

もう20年前の楽曲になってしまっていて眩暈がしたが、友達であるキミを好きなボクの切ない心情を歌っている「JAM」という楽曲。どこにでもいそうなボク。君のことを手に入れられずもがくボク。恋愛なんかに振り回されるボク。うまくいかない、そんな自分を敢えて表現した楽曲だ。他グループもそうだが、ジャニーズの楽曲は昔からとんでもなくレベルが高い。今聴いても全く古臭さを感じないので、ぜひ聴いてほしい。
※ジャニーズの新名称があまりにもしっくりこないので、この記事ではわかりやすく旧名称で呼んでいきます。

ジャニーズの凄みはアイドルという理想体を掲げながらも、共感性を重視し親近感を獲得する世界観の構築だったと思う。BMSGとは真逆の、敗者の哲学。

SMAPも後期のイメージだけではあるが人々に寄り添う楽曲が多かったし、SixTONESがミリオン再生を突破させた楽曲「こっから」も、ドラマからのインスピレーションはあるものの同じく敗者の哲学を感じる。

まだまだ国内で根強い人気を誇るジャニーズ。世界市場を見れば小さいのかもしれないが、日本国内だけでこれだけ浸透してるってことは、彼らが持つ敗者の哲学をまとった世界観が、我々日本人には元来合ってるのかもなと思う。

ただまぁジャニーズと同じことをしても逸脱はできないからこそ勝者の哲学を打ち出し成功しているBMSGも末恐ろしい。SKY-HIはわかっていてBMSGを設立したのだろうか?理解してやっていたのなら怖すぎるので、一旦頭の隅に追いやっておこう。

さて、ボーイズグループが乱立する昨今、嵐(ジャニーズ)が作り出した敗者の哲学みを帯びた近年のアイドルの楽曲がある。

楽曲タイトルがストレートすぎるのが些か訝しいが、俳優の佐野勇斗率いるスターダスト所属M!LKによるKiss Plan。これまで王子様路線だった彼等がどうやら下界に降りてきたらしい。

気になるキミとどうしたらキスができる?と悩み、惑う世界観は、あの頃の嵐と被る。友人も平成初期のジャニーズみたい!と言っていたので感覚的には合っているように感じる。
まだ下界に降りてきたばかりだからか、ちょっと格好つけすぎてるので、5人とももっとナチュラルで自然体で情けなくても、十分に映えそうだし共感性も高そうだなぁと思う。嵐のあの頃から20年、そろそろ本格的に彼らを引き継ぐ次世代が出てきてもいいころだ。一体、誰がそうなるんだろうか?

ジャニーズが提唱してきた敗者の哲学も、BMSGが新たに打ち出してきた勝者の哲学も、それぞれが色濃く世間を照らしている。アートやエンタメの中では、勝ちも負けも、自信のあるもないも、全てが昇華される。フラれてしまった私の友人は、それらを生業にしてはいないが、何らかの方法で痛みが癒されてほしいと思う。できれば他者に依存せず他者に自分の価値を見出さず、自分で自分を肯定し、強さも弱さも受け入れて日々を過ごしてほしいと願うばかりだ。


そんなことを考えていると、ひとしきり泣いた彼に「ねえ、ちゃんと話聞いてた?」と言われた。聞いてたよ、と嘘八百を返した。案の定、嘘つけよと苦笑いされたが、顔から鬱屈した表情が少しだけ抜けていた。

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