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浅草キッド

今更感はあるが、浅草キッドを観た。
ご存じ、北野武氏の若かりし頃の話である。
映画の、すっごく感動しましたーみたいな観客の映像の安いコマーシャルじゃないが、
私が涙したのは、その師弟関係についてである。
以下、多少のネタバレを含むので、未だ観ていない方は遠慮願いたい。




映画の感想と銘打っておきながら私の心は違う所を漂っている。
芸事の世界ではないし、きちんと弟子入りしていたわけではないが、
オートバイを仕込んでくれた、師匠と呼んで親しんだ人が居た。昨年、惜しくも亡くなってしまった故の涙だ。

作中でも、師匠の深見千三郎はどんな時も弟子のタケ(北野武)を想っている。
タケも、袂を分かった後も師匠を想っている。
同じように、私の師匠も亡くなるその直前まで私や他の私たち世代を案じたし、私も師匠を想った。



師匠とはいつも馬鹿ばかり言い合った。
お互いに家庭の問題も多かったし、
私などは若さゆえの悩みに振り回された時に、
その反動のようにバイクに夢中になった。
いつも師匠は私の前を駆け、
私は師匠を必死で追った。



ぶっきらぼうな師匠が私には妙に優しかったのは、
私が他と比べて振り切れた馬鹿だったからだと思っている。
それだけは自信がある。

病の床にある師匠に、他の者が見舞いに行ってもあまり元気がないと言っていたのに、
私が行けば妙に元気になった。

それは、俺には気を遣わせんぞと明確な意思表示だったと思うし、愛だったと思う。
最後に会った時ですらその空元気は崩れなかった。
空元気と分かった上で、私も与太を飛ばして笑い転げた。

もちろん師匠も、もう一花咲かせたらぁ!と意気込んだかも知れないが、
冷酷にも病は師匠を蝕んで行き、再び立ち上がる事は無かった。





作中、師匠のお墓参りを終えたタケの、劇場を歩く回想シーンがあるが、
ああ、そうだなと思った。
様々な場面に師匠は生きているのだ。
悔しいけれど、悲しいけれど、
時間は戻りはしないのだ。
馬鹿は馬鹿なりに、一生懸命馬鹿をやるしかない。



コーナーを抜けるとあの頃の師匠と私が駆けていくのが見える。
追いつかないのは分かっているけど思い切って弧を描く。

師匠の声がする。



呆けたような顔して乗ってんじゃねぇぞ!



盆は福岡に帰りますよ、師匠。

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