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【連載】偏愛ユートピア〜ニッチでマニアックで強すぎる愛を交差させた先に見えるもの〜①



prologue


偏愛──それは彼の生きがい。それは彼女の希望。彼らの芯であり、子であり師でもあり、まさに生き方そのものである。
しかし、心の底から愛を語る姿はまるで「変人」だと、他者から距離をとられることもしばしば。社会の生き辛さたるや。

かつてフランスの思想家シャルル・フーリエは、人間の自然的な欲望を肯定し、ユートピア思想を説いた。著書の翻訳を手掛ける福島知己氏は、フーリエの思想を論じる中で以下のように述べている。

これまでユートピアは、(中略)現実とは相入れないものとみなされてきた。けれども、(中略)ユートピアとは現実のもうひとつの姿であり、現在の裂け目に絶え間なくやって来る未来の可能性なのである。

「シャルル・フーリエのユートピア:アイロニーとユーモアの視点から」
(福島知己/2003)より引用

偏愛ユートピア──そこには、私たち一人ひとりが豊かに生きるヒントが潜んでいるのかもしれない。
その答えを探して、「推しを語って愛でる会」なるものを開催したのだった・・・・




本連載は、(株)エフエムなよろが発行する道北地域のフリーペーパーPickup2022年7月号掲載の特集「偏愛ユートピア〜ニッチでマニアックで強すぎる愛を交差させた先に見えるもの〜」を、よりウエットに、よりスペクタクルにお楽しみいただくための企画です。
推しへの愛が強すぎる4名のゲストたちによる、あまりにも壮絶で尊い偏愛トークセッションを、臨場感あふれる対話形式でお送りいたします。



「推しを語って愛でる会」 のはじまり・・・・


2022年6月3日、北海道名寄市内にあるアクアショップ「FOREST」でそれは開催された。
FORESTは、アクアリウム歴30年の五十嵐さんがオーナーを務めるアクアショップ。店内には珍しい(もはや素人には珍しいかどうかもわからない…)えびや熱帯魚に加え、水草やコケなどが立ち並ぶ。
入口付近のチンアナゴがちょっとだけ顔を出している様子は、今日の日にふさわしい空間を醸し出していた。

最北端のADA特約店/カミハタビジネスオンライン販売店舗

【会 場】
AQUA GREEN PROJECT えびと水草の店 FOREST
北海道名寄市西2条南4丁目7(牛若丸1F)





編集部の独断と偏見によって見事選抜された4名の強者たちがわらわらと集まっていた。用意された席に着くでもなく、店内の生き物たちに目を輝かせながら、五十嵐さんをつかまえて質問攻めにしている。

開始前から、波乱の予感…。


GOALは 「豊かさの再発見」


編集部:
さて、今日は事前にお伝えしていたとおり、自分の偏愛を思う存分語って共有して愛で合う会なんですが、お願いしたいことが1点。
Pickupの今年のテーマ「多様な豊かさを問う」に沿って、推しへの愛と自分の豊かさの関係に着目してほしいなと。
今日の偏愛トークを通して、「自分にとっての豊かさ」 の解をみつけてください!

というわけで、偏愛歴も含めて自己紹介していきましょうか。

藤さん:
あ、じゃあ僕からいきますね。


【 Hen-Ai 】 藤原佑輔 (藤さん)

どちらかというと野生のコケ派ですが…

北海道下川町「のらねこ屋」の自然ガイド。
観察フィールドは、森もコンクリートもどこもかしこも。

藤さん:
(数年前に移住して)下川に来てからガイドの仕事を始めて。それから勉強し始めたので、まだまだ知識も少なくて。広く浅くなんですよね。
一応コケ好きということで下川町内には知れ渡ってはいるものの、コケって同定が難しくて…。なので、見た目が気に入ったやつを愛でて楽しむくらい。顕微鏡を使って、鋸歯(きょし)があるからこれだ、とかそこまではやっていなくって、ビギナー素人で恐縮なんですが。
ただコケに限らず、粘菌とか地衣類とか、あと石とか気象現象とか全般興味があります。

鋸歯とは・・・・植物の葉の縁にある、ぎざぎざの切れ込み。
詳しくはこちらをCHECK→ 一般社団法人日本植物生理学会のwebサイト


【 Hen-Ai 】 田中宏武 (ひろむ)

トンボとセミとの3ショット

昆虫のおかげで人生が豊かになった。
次生まれ変わるなら青い瞳(複眼)のトンボになりたい。

ひろむ:
今はガイドのお勉強中でして、名寄の北国博物館の方で自然観察クラブだったりとか、市民向けの自然イベントに携わらせていただいてます。これから地域の子どもたちや市民のみなさんに、地域の自然の素晴らしさや大切さを伝えていけるようになれたらいいなと思っています。
えーと、推しはちょっといろいろありすぎて、何をセレクトするか難しいところなんですが…昆虫の中だったらトンボ。魚だったら鮭科、トラウトの仲間。鳥だったら猛禽類のハチクマっていう素晴らしいやつがいるんですけど、それが好きですね。はい。



【 Hen-Ai 】 小西里佳 (ペンちゃん)

南極にて、ジェンツーペンギンと。

野生ペンギン全種類に会うのが人生の最終目標。
ゲストハウスKembuchiペンギン家オーナー。

ペンちゃん:
今は剣淵町でゲストハウス「Kembuchiペンギン家」と、個別指導塾「ペンギン先生の学び舎」を主にやっています。実は教育委員会の仕事もしていて、剣淵高校で絵本の授業を担当の先生と一緒に進めています。
私の推しはもちろんペンギンなんですけど、もう少し細かく推しペンギンを言うとですね。私は野生ペンギンを見に行く旅をしていて、野生で見たイワトビペンギンとか、ガラパゴスに4回行っているのでガラパゴスペンギン
あとやっぱり、先日和歌山のアドベンチャーワールドのオンライン講座でコウテイペンギンの赤ちゃんが搬入された動画を見て、あ〜これはもうダメだって(笑)。その3つかな。



【 Hen-Ai 】 琴 音

旭山動物園愛が強すぎて、「いかに動物園に行けるか」が中心となる生活を送り続けている。

琴音:
普段はラジオAirてっしのパーソナリティをやったりしています。
私の推しは、旭山動物園。いろいろと意味をもつ展示方法をしていたりしていて、旭山動物園の想いに感銘を受けたんです。コロナ禍で閉園を余儀なくされてしまった時に、SNSで動物たちの様子を配信しているのを見つけて以来よく行くようになったので、ほんとここ最近の話なのですが。小さい頃から行っていた動物園なんだけれど、また違う気持ちで、いろんな見え方ができるんですよね。通ううちにどんどん裏側が見られるようになってきて、さらにハマっていってます。


編集部:
ありがとうございます。
みなさん濃いめなのは、なんだか伝わってきました(笑)。


擬人化するのもおこがましい問題


編集部:
(事前に提出されていたゲストの偏愛歴を見て…)ちょっと藤さんの「擬人化するのもおこがましい」って…これどういうことですか?

藤さん:
あー、なんというか、生き物を人間に置き換えて褒めることってよくあるじゃないですか。「こういう子だからすごい」みたいな。

ひろむ:
いやわかります!

藤さん:
でも本当にハマっていくと、そういうこと言えなくなるって感じ、ありません?

ペンちゃん:
(笑)

琴音:
わかりみが深い(笑)

藤さん:
たとえば、「木が動物たちのためにこんなことしてくれていて、お母さんみたいな存在」とか。そういう表現をね、ついしちゃうんだけど。
でも、木はそんなつもりはないだろうなって。それは人間がそうあったらいいなって勝手に押し付けている、絵本の世界みたいな。
そうじゃなくて、木は木でマイペースに生きてくれていて、かっこいいし、かわいいし。あえてそんな役割を与えなくても、本当はいいのかなって。いるだけでいいねっていうくらい愛してほしいなって、思いますよね。

琴音:
いいですねぇ〜。

藤さん:
擬人化がダメって思ってるわけじゃないんだけど、だんだんそれをやるのがおこがましくなってきちゃって…。

編集部:
それって、どんなタイプかっていう擬人化の話じゃなくて、愛する人の域ですよね?(笑)

藤さん:
やっぱりみんな、好きな動物のこと「あの子」とか、人のように呼んじゃうよね。「あの子ちょっとやんちゃでね〜」とか。なんやかんや、そういう見方はしちゃうよね。


あなたの好きなあの子のいいところ


藤さん:
旭山動物園といえば、マヌルネコとかどうですか?

琴音:
かわいいですね〜、すごくかわいいんですよ。もうね、警戒感がハンパなくてね。

藤さん:
睨んでくるよね(笑)

琴音:
そうそうそう。そこが大好きなんですけど。
けど、そこよりも!私が必ず行く場所が、オオカミなんですよね。シンリンオオカミ

藤さん:
やっぱり閉園前の遠吠えも聞くんですか?

琴音:
えぇ、もう何本も動画を撮っていまして。(笑)

シンリンオオカミ、彼らはエゾじゃないんですよ。カナダからの移住者なの。実はね、初めて人が絶滅させたのがエゾオオカミなんですよ。だけど、北海道の、旭山動物園にオオカミがいないわけじゃなく、あえてシンリンオオカミを置くっていうところが、もう、深いんですよね〜。

ペンちゃん:
ほぉ〜。

琴音:
その理由がですね、(シンリンオオカミの)隣にエゾシカの森がくっついてるんですけど、エゾシカって今被害すごいじゃないですか。それもエゾオオカミがいなくなった影響で、エゾシカが増えてしまっているわけで。もとをたどれば、人の仕業なんです。
この流れ、この一角が大好きなんですよね。

エゾシカの被害は、北海道では深刻な問題…

以下参照:北海道内の野生鳥獣による被害調査結果について(令和2年度分)


藤さん:
そっか。エゾシカの横にあえて配置してるんですね。

琴音:
そうなんですよ!
あと北海道産動物舎という鳥のいる館があって、「ととりの村」じゃない方に、ワシやタカがいる。そこもちょっとしびれますね。

ペンちゃん:
キツネもいますもんね?

琴音:
キツネもタヌキもいますね。

藤さん:
白いキツネがいますよね?

琴音:
そうですね、ホッキョクギツネが。夏毛は真っ黒っていう。
鳥はどうですか?あ、トンボか。

ひろむ:
鳥も何でもやっぱり語ると長いですが…

琴音:
一番愛するのはトンボなんですか?

ひろむ:
そうですね、昆虫ではトンボですね。
トンボのすごいところは、幼虫のヤゴのときと、成虫になって空中に出てから、ハンターの時期が2つもあるんです。水中でのハンターの顔と、地上でのハンターの顔と。結構肉食なので、水の中では他のトンボだったり、小さいエビとかいろいろ食べたりするんですが、羽が生えて飛べるようになってからは、他の小さいハチだったりとか、いろんな昆虫を食べて、2つのハンターの顔をもっている。まずそこが生態的には面白いなっていうことと。
あと僕がトンボですごい好きなのは、生きてるときの輝きですね。

ペンちゃん:
すごい、尊い。

ひろむ:
クワガタとかチョウの標本が昆虫館とかに置いてありますけど、クワガタは多少目の色が変わったりするけど形はそのまま。チョウの翅(はね)の綺麗さはちゃんと管理すれば半永久的に保たれますし。だけど、トンボっていうのは死んでしまうと、どうしても複眼の色だったり、体の模様の色がかなり落ちてきてしまって。もちろん標本として、何年何月そこに何がいたという記録を残すことはとても大切なことなんですが、やっぱり生きてる姿が美しい。眼の中に小さなコスモが、宇宙がある。

琴音さん:
尊い!尊いですね~。

藤さん:
沼っぽい(笑)

注)ゲストのみなさまには、こんなリアクション札を持たせています。


ひろむ:
トンボはやっぱり素晴らしいなぁという。はい。

ペンちゃん:
しいて言うならば、トンボの中の何トンボ?

ひろむ:
私は大きなヤンマの仲間、トンボの中でも7~8センチになる大きめの仲間で、結構大きいんですね。その中でもマダラヤンマっていうトンボがいまして、あとマルタンヤンマっていうヤンマがいるんですけど、その2種は特に。
複眼と体の青い縞模様の色がコバルトブルーといいますか、トルコ石みたいなすごい青色をしていて、生きているときは本当に美しくて、もう何時間でも見てられるなって。マルタンヤンマは北海道には分布していないんですけど、マダラの方は北海道にいますので。

ペンちゃん:
へぇ~、この辺でもいるの?

ひろむ:
名寄近郊はまだちょっと…マダラヤンマも分布がかなり局地的でして、年々ちょっと増加傾向にあるんですが、まだまだあんまり知られていない。分布域的には狭いというか、抽水植物が生えているような池など一部に局地的にいるような感じなんです。たぶん、道東の方にはいないくて、分布がちょっと途切れ途切れなんですよね。
あ、写真もありますので後でお見せしますね。
ちょっと今年も時間があるときに、名寄近郊でもいないか探してみようかなと思っています。
あと、まだムカシトンボっていうのもあるんですけど、これはまた後ほど。

どうやらマダラヤンマは準絶滅危惧らしい・・・

以下参照:NPO法人野生生物調査協会・NPO法人Envision環境保全事務所運営サイト


琴音:
ペンギンもめっちゃ気になる

ペンちゃん:
私は基本野派なんですよ。旭山動物園ももちろん行くし好きなんですけれど、初めて見た野生ペンギンが…せっかくだから出します。

おもむろにぬいぐるみを引っ張り出すペンちゃん

1人旅を始めたときに、ペンギンが好きだから野生ペンギンを見に行こうと思って、初めて見に行ったのがニュージーランドです。これ、ニュージーランドで買ったぬいぐるみなんですけど、実際このくらいの、20センチぐらいのペンギンがいてね。夜、巣が陸にあって、海から一生懸命帰って来るんですよ。波にのまれそうになりながら。それを見たときにもう感激して、これは日本の動物園とか水族館で見られるものじゃないなと思って。そこで野生ペンギンにハマったんです。
他の野生ペンギンも見たい。特に、日本にいないペンギンを見に行こうと思って、行ったのがガラパゴスだったりとか。

琴音:
もともとペンギン好きだったの?

ペンちゃん:
中学校くらいの頃から、なんとなくペンギンのシャーペンとか持ってたり。
本当に野生にハマったのは、仕事し始めてから。22、23歳ぐらいかなぁ〜。

藤さん:
子どもの頃は、生態とか、生き物の知識とかに興味はあったんですか?

ペンちゃん:
全然興味はなかったです。旭山動物園にもいるキングペンギンの赤ちゃん、まっ茶色なんですけど、あれキウイみたいで。ちょっと親よりもデカくなる時期があるんですけど、それを大阪の海遊館で初めて見たときに(※ペンちゃんは関西出身)、何かわかんないから「長老」って呼んでました。貫禄ありすぎて。

藤さん:
何か悟ってる感ありますよね(笑)

ペンちゃん:
それから、やっぱりどうしても南極に行きたかったので南極行ったりとか、パタゴニア地方をずっと旅したりして。エクアドルに1年ほど語学留学に行っていたのでスペイン語はまあまあ喋れるから、旅先でインフォメーションに貼ってあるポスターを見て、あれ、イワトビペンギンどこかにいる!?ってなって。ガイドブックには載ってないんですよ。どこにあるのか聞いたら、「この町だよ」、「じゃあそこ行きます」って感じで、ペンギンだけを追いかけてパタゴニアを旅行してたっていう。

琴音:
現地まで追っかけだ(笑)

ペンちゃん:
そう、ここにいるって聞いたら、じゃあ行きますって。

藤さん:
確かに、生き物ってあんまり観光資源化されていなくて、知る人ぞ知るみたいなところありますよね。ヒメギフチョウが道北にいるってこともあまり知られていないし。現地の人にとったら、観光資源としてPRされない限りそんなレア度が高いものが近くにあるなんて、気づかないだろうしね。まぁ、だからこそ生態が守られてる部分もあるけどね。

ヒメギフチョウも環境省レッドリストに準絶滅危惧指定されている。

※公開当初、記事内で準絶滅危惧指定の昆虫の生息地詳細を記載してしまっていましたが、採集の促進とならないよう詳細地名を削除させていただきました。


〜次回へつづく〜