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映画【花腐し】を観た


はじめに

今年になって、幾らかの同じような境遇の方が居そうだけれど、映画【カラオケ行こ!】で綾野剛さんにハマった。
元々映画とかドラマとか少し観ていたけれど、悲しい終わり方や、観ている側のメンタルが死ぬような作品とういか役柄が多くて、好きな俳優さんではあるけれどそこまで追ってはいなかった。
綾野剛さんの作品=観たらメンタル死ぬ。
しかもヤクザ役でしょ? 2021年の【ヤクザと家族】を思い出せよ、という感じだったけれど、SNSでの評判が良くて観に行って、好き→推しへの変遷は一瞬で訪れた。
そんな綾野剛さんがR18作品に出ているということで、興味本位で観た映画の感想です。


制限のついていない小説を、ピンク映画にしたとのことで、R18シーンはどれくらいのものだろうと思っていたけれど、数はそこそこあるものの、そんなに際どすぎるものはなかったのは救い。映像よりも音声が激しいので、自宅で観るならイヤホン必要なレベルではあると思う。

花腐し』(はなくたし)は、2000年に発表された松浦寿輝中編小説芥川龍之介賞受賞作品[2]。2023年、同作を原作とする荒井晴彦監督の映画『花腐し』が公開された 。

【映画あらすじ】
ピンク映画監督である栩谷(くたに)はかつての恋人・女優の祥子(しょうこ)の通夜に出向き、過去を思い出す。ある日栩谷は、祥子と同棲していたアパートの大家から家賃の値下げ据え置きと引き換えに、別の古アパートに居座る住人の立ち退き交渉を頼まれる。その男は伊関と名乗る脚本家の男で、かつて同じアダルトビデオメーカーで仕事をしたことがあり、不平不満で意気投合する。さらに話を進めると、伊関は同じ居酒屋のアルバイト同志として祥子と出会い、交際していた時期があったことがわかる。

Wikipedia【花腐し】

映画感想

自分の彼女の祥子が、自分の親友で同じピンク映画の監督である桑山と海で心中したというシーンから始まる。
栩谷という男は、ピンク映画の監督でありながら、もう五年も映画を撮っていない。ぼそぼそとしたしゃべり方と、自分をあまり表現しない様子で、音声としても時々台詞を聞き逃しそうになる、そういう感じの男。
自分の親友である桑山から紹介されて祥子と知り合い、意気投合して身体の関係を持ち、恋人となり同棲する訳だけど、六年間も一緒に居て、きっと色々あったはずなのに、はっきりしない栩谷の所為で、ずるずると関係は特に進展しない。
女優になりたいという祥子も鳴かず飛ばずでまったく芽が出ないまま。
そんな祥子に至っては、地方から出てきた2000年~数年間は、居酒屋で知り合った伊関という男と同棲をしていて、その後別れて栩谷と2006~2012年まで一緒に居たということが、栩谷と伊関の思い出語りから分かる。

男二人の主観で話されるので、祥子の気持ちが視聴側には、こうだったのだろうか、あぁだったのだろうかという想像で考えるしかない。
けれど、伊関との間に出来た子どもを、女優になりたいからと堕胎し結婚も断った当時の祥子と、芽が出ないまま2012年になり、栩谷との間でできた子どもを、栩谷に、家族なんか要らないといわれ、絶望し、そしてそのまま流産してしまった祥子の心境の変化を考えると、煮えきれない、逃げてばかりの男ふたりに翻弄された祥子が、求めたものは、結局何だったのだろうかと思う。
自分のことを、明らかに好いていてくれる桑山。けれど、彼は、祥子と栩谷との関係があるから一度は諦めたと思われる。そんな桑山と心中した祥子が求めたものとは――。

と、ここまで語ると、色々考えるところはあるんだけれど、最後の方で、栩谷が、伊関が囲っている脱法ハーブの実験に付き合っている留学生の女の子リンリンに逆レされて目が覚めた後から、話が変わる。

誰も居ない、伊関の部屋。
リンリンが暴れた痕跡もなくなり、劇中死んだ祥子と飼っていたザリガニとは違い、生きている金魚が居る金魚鉢の横にあるノートパソコン。そこにある、【花腐し】の書きかけの脚本。
途中、祥子の浮気が発覚した時に、栩谷が取った態度を、伊関が聞いて、俺なら~、ということを思い出したのか、そのシーンを一度修正する。殴る。そしてまた修正して、抱きしめる、に変える。
ここで、んんん??? と観ている側は、どういうことだってなって、最後の最後に、伊関のアパートの部屋を出た栩谷が、扉を開けて入ってきた真っ白なワンピースを着た祥子(の亡霊というか幻影)と出会い、彼女が伊関の部屋に入って消えていくシーンと、追いかけて部屋に戻った栩谷が、室内を見て、涙を一筋流して終わったところで、その意味が理解できる。

そして、映画はエンドロールへ。
栩谷と桑山が、まだ監督としてではない助手というかスタッフとしてピンク映画の撮影に加わっていた時に、撮影後の打ち上げで、祥子がスナックで歌を歌うシーンがある。劇中は祥子の歌唱シーンだけだけど、エンドロールではそこに栩谷が加わって、相変わらずぼそぼそ歌っているのに、最後は熱唱するという感じで終わる。

これを観た瞬間に、栩谷が祥子を愛していたこと。
そして、ピンク映画にも祥子にも捨てられたと、伊関に告白していた栩谷が、祥子と約束をしていた、彼女主演のピンク映画を撮るという果たせなかった約束を、果たそうとしていたことが漸く理解できる。

つまり、劇中に登場する、伊関、という男は現実には元より存在しない。
彼が存在するのは、栩谷が、【祥子の為に書いたピンク映画の脚本】に登場する人物だったということ。
栩谷はそこに自分自身をも登場させることで、果たせなかった約束と、映画にも祥子にも捨てられたという、観ている側からしたクズっぽい理論の男の言い訳を、正当化しているようにも思う。
愛していた女を喪った自分を救う為の目的として、祥子との思い出を手段として利用したとも考えられる。
けれど、最後のあの涙を思い出すと、あぁそうか、と納得もする。

最後に


良い意味で最後に裏切られるお話。
そして、キャスト陣が全員とても良かった。
綾野剛さんはもちろんだけど、柄本佑さん良いなぁとあまり彼の作品を観たことがないので特にそう思った。あとさとうほなみさんも。
エンドロールで、熱い視線で祥子を観ていた桑山が諦めるシーンが、視線と身体の動きだけで表現されるんだけれど、ほんのちょっとの役柄なのにそこを印象づけて残していく吉岡睦雄さんの演技も良い。
R18なので、万人にはお勧めできないけれど、物語の筋としての切ない愛を描いた作品という意味ではいろんな人に観ていただきたいと思う作品です。

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