見出し画像

日記#89短大の頃に知った楽しい食卓

短大に行っていた頃、ふと母に話したことがきっかけで在るところにお手伝いに行く事になった昔の話。

将来の事を漠然と考えていた。
本が好きだから印刷会社も興味あるなと思ったり、あれやらこれやら夢と現実の狭間でいたあの頃。

私は母にもその様な事を話したのだろう。
母と同郷で顔見知りの人が、大学の教授から依頼を受けて大学の授業用の本を作っているらしい事が分かった。
訪ねてみることになった。

母と一緒に行ってみると思い描いた出版社とは全く違う普通の一軒家だった。

出迎えてくれたのはご夫婦と当時まだ幼かった子供さん3人と、そこで働いている方々。
子供達もその場にいたので学校の長期の休みの期間だったと思う。
その日から暫くほぼ毎日の様に通った。



おそらく今思えば活版印刷所兼自宅だったのだろう。


職人の方々が原稿通り活字を並べ印刷する。

私が教えてもらってやった作業は印刷が終わった後の工程。

出来上がった印刷物を1ページ目から最終ページ迄を順番に集める。

厚い本はかなりのページ数あるので、2段階や3段階に分けて後から合体させる。

例えば1ページから100ページの物を100冊作成する依頼があったとする。
印刷が出来ると直ぐに印刷物は2つ折になる機械にかける。それを輪になる方向を同じにして本になった時に向きが1~100となるように気を付けながら、各々100部ずつずらし重ねて横一列に並べる。

それを指サックをはめて順番が狂わないように丁寧にそして迅速に集めていく。

なんて無い作業なのだが、間違ってはいけないと思い私なりに必死だった。

日にちが経過すると少しずつ慣れてきてちょっとずつ出来るようになってきていた。
楽しかった。
もくもくと作業するのは好きな事。

暫くすると次の工程も教えてもらった。

きちんと集められた印刷物をボンドで固定させる工程。

束ねられた印刷物をしっかり綺麗に揃え外れないように特製のクリップで留め、本の軸になる部分にボンドをたっぷり付け乾かす。
乾いたら機械にかけて不要な端を切り落とし表紙などをボンドで付けて完成。

機械を使用する工程もあるが、全て手作業の印刷の様子を学んだ。

とてもお世話になった。

そこで出会った皆様が優しくて楽しくてあっという間にお手伝いの期間が終わってしまった。


その間、昼食や夕食もご家族や働いている方々と一緒に頂いた。
総勢10名。
それはそれは賑やかで楽しい食卓だった。


私の家庭には無かった風景。
もちろん家族3人、父と母と私が揃って何度も食事をしていたが、楽しかった記憶は無い。
自分から話を親にすることも用事がない限り無かったし、今日はこんな事があってと父や母が楽しそうに話す様子もなかった。

10名で食べたことも無かったし。


話題が尽きないし、皆が笑っているし。こんな世界が有るんだと初めて知ったかもしれない。

仲の良い皆で食べる食事がこんなに楽しくて美味しい物だと知って新しい風を感じた。

食事を作るのを手伝ったり、子供達と遊んだりもしながら過ごしたあの頃は今思うととても懐かしい。

40年も昔の話。


私の今の家庭はどうだったか。

理想はこの楽しかった時に感じた食卓だったが、子供達が家にいた頃は緊張する場だったかもしれない。

申し訳ないと思うが仕方がない。
あの頃生きていることだけで
精一杯だった。
我が家から笑いが消えてからの数年は
本当に大変だったのだから。

思い返すと私の親もそうだったのかもしれない。

そう思う事が出来て、今生きていることがちょっとだけ愛おしくなった。



読んで下さってありがとうございます
今日も明日も良いことがありますように(紫陽花)