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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第131回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の十八~二十
 
衛霊公十五の十八
 
『子曰、君子病無能焉。不病人之不已知也。』
 
孔子曰く、「君子は能力の無さを気にかける。他人が自分を認めないことは気にかけない。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババ系物流会社、菜鳥が、自ら宅配に乗り出す。6月末の上海世界スマート物流サミットで明らかにした。これは方針転換である。宅配能力の欠如を気にかけた結果だろうか。
 
(サブストーリー)
 
国家郵政局によれば、中国の宅配量は、6月24日に600億個を突破した。これは2019年より172日早く、2022年よりも34日早い。宅配便需要は増える一方である。
 
菜鳥は2013年、アリババが43%を出資、その他投資機構や宅配大手5社の出資を得て設立された、物流プラットフォーマーである。倉庫会社、運送会社の参加を募り、物流を組織化、情報化、スマート化した。ただし2022年5月、創業者・馬雲は、自ら宅配を行なうことはしない、と表明していた。それがサミットの席上、青島ビール、盒馬生鮮、銀泰百貨など大企業と宅配便契約を結んだ。全面的に参入するという宣言である。いりいろ悩んだ挙句、創業者の言葉をひっくり返し、直営に乗り出したという。決定打となったのは、選択可能な複合物流サービスを望む、顧客ニーズだった。何しろアリババのネット通販では、1日1億個の荷物が生み出される。創業者の立場より顧客ニーズを優先した。そんなことは気にかけない。
 
衛霊公十五の十九
 
『子曰、君子疾没世而名不称焉。』
 
孔子曰く、「君子は、世を去るまでに名が上がらないことを憂慮する。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババ系の新零售スーパー「盒馬鮮生」は、全国300店舗を展開、黒字化を達成し、今年中の上場を目指しているようで、話題沸騰中だ。これに対し、京東の「7Fressh(七鮮)」は名が上がっていない。京東は、その状況を打開すべくテコ入れに入った。
 
(サブストーリー)
 
そのため、創新零售部を設立、その下に、技術開発部、供応鏈(サプライチェーン)運営部、前置倉事業部、七鮮事業部を置いた。この体制で、オンライン、オフラインの統合を加速する。具体的には、オフライン店舗の強化である。
 
七鮮は2017年、盒馬鮮生に1年遅れでスタートしたが、店舗は北京、天津、河北省地区、大湾区(香港、マカオ含む広東省沿海地区)の2つの地域にしかない。また2020年に始めた社区購物(コミュニティ単位の共同購入)の「京喜拼拼」は、大規模に撤収した。現在は北京と鄭州を残すのみだ。社区購物は、商品調達力のある優秀な団長なら、自らコミュニティを組織し、1人でもできてしまう業態だ。本来大企業とはアンマッチと思われるが、美団、蘇寧、滴滴出行、など大手がこぞって参戦した。その結果はというと京喜拼拼に限らず、どこも縮小しつつある。オフラインの強化といっても簡単ではない。
 

オンラインとオフラインの融合は、元々、京東の創業者・劉京東が「無界零售」を提唱したのが最初である。しかし、後出しじゃんけんで、アリババの馬雲が「新零售」と言い始めると、発信力の違いで、こちらのワードが定着した。しかも「盒馬鮮生」を成功させたのは、元京東の物流責任者である。京東は「盒馬鮮生」を上回るビジネスモデルを提示することができるかどうか。

 
衛霊公十五の二十
 
『子曰、君子求諸已、小人求諸人。』
 
孔子曰く、「君子は、諸事の原因や責任を自分に求めるが、小人はこれを他人に求める。」
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイのスマホ事業が、凋落したのは、他人に原因がある。米国の制裁だ。5Gスマホの半導体が手配できず、世界一を視野に入れていたスマホ事業には、急ブレーキがかかった。現在では米国に依存しないOS・ハーモニーなど、独自システム構築に向かっている。しかし、アップルOS、アンドロイドの牙城を崩すのは、簡単にできるとは、ファーウェイ自身も思っていない。
 
(サブストーリー)
 
そのため、これまで消極的だった投資に注力しはじめた。2021年の海外投資は過去最高の41件を記録した。半導体、スマートハードウエア、集積回路、IOT、企業サービス、新材料、スマートマニファクチャリングなどである。ファーウェイには“基本法”があり、投資目的も明記されている。それには、短期~中期の投資は、製品戦略に重点を置き、技術力、市場での地位、管理能力の強化に資するもの、とある。直接の利益より、成長機会を重視する。2019年3月、100%出資の哈渤科技投資という投資会社を設立した。これ以後、投資のスケール感が増す。同社はこれまで94件の投資をしたが、そのほとんどが、半導体とその製造、サービスに関する企業だ。TSMCがファーウェイ子会社、ハイシリコンからの注文を断り、明確に米国サイドに立ったのは、2020年5月。最終出荷は同年9月だった。こうした厳しい状況に対応するため、あらゆる有望そうなリソースに、アクセスしまくっている。成果が見えるのは、まだこれからだ。
 

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