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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第142回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
季氏十六の八~十
 
季氏十六の八
 
『孔子曰、君子有三畏。畏天命、畏大人、畏聖人之言、小人不知天命、而不畏也。狎大人、侮聖人の言。』
 
孔子曰く、「君子には、三つの畏敬の念がある。天命を畏敬し、大人を畏敬し、聖人の言葉を畏敬する。小人は天命を知らず、畏敬の念を持たない。大人になれなれしく、聖人の言葉を侮蔑する。
 
(現代中国的解釈)
 
アリババの張勇氏が完全に退くことになった。持株会社+6事業部に再編する大改革を施してから、半年しかたっていない。最後の肩書は、持株会社アリババの董事会主席兼CEO、6事業の1つ、クラウドコンピューティング、阿里雲の董事長兼CEO。これらをすべて退任し、投資家に転身する。天命を畏敬した結果だろうか。
 
(サブストーリー)
 
張勇氏は1972年、上海の生まれ。上海財経大学で金融を学び、会計事務所プライスウォーターハウスクーパースに就職。その後、オンラインゲーム会社の最高財務責任者を務め、2008年にアリババへ入社。通販プラットフォーム、淘宝の財務責任者となり、翌年の黒字化を実現。また同年開始の双11(11月11日独身の日セール)の制度設計を主導。2013年以降、アリババの戦略投資も主導。2015年、新型O2Oスーパー、盒馬鮮生の誕生も主導。同年、アリババ集団のCEOに就任。2019年、取締役会会長に就任。2023年、6事業部制の組織改革を主導。
 
当初、創業者の馬雲は、わけのわからない男を後継者にした、と言われたが、それは世間に知られていなかっただけだった。張勇は、財務のプロとして入社したが、よほど優秀だったのだろう、アリババの成長エンジンのすべてを設計したスーパーマンだ。双11が軌道に乗ったころ、張勇は一度、金融業界へ復帰しようとし、辞意を伝えている。それを引き止める代わりに馬雲の用意したのが、アリババ後継者の座だった。その後2020年11月、アント・グループ上場中止以来の逆風(2021年4月182億元の罰金)も、コロナ禍も乗り越えた。2023年春には、大規模な組織改革を実施、四半期決算では、早くも成果が出始めている。ここでもう経営者としては一段落した、という心境となってもも不思議ではない。キャリアの最終ステップとしての投資家に転身するようだ。アリババは彼が設立予定の科学技術ファンドに、10億ドルを出資する。やはりこれは天命に従ったように見える
 
季氏十六の九
 
『孔子曰、生而知之者、上也。学而知之者、次也。困而学之、又其次也。困而不学、民斯為下矣』
 
孔子曰く、生まれながらに道徳を理解している者が最上。学んでこれを理解するものはその次。困難に直面して初めて理解する者は、またその次。困難に直面してもこれを学ばないものは、民の中で最下等。」
 
(現代中国的解釈)
 
その張勇氏の後継は、である。アリババ創業以前からの馬雲の旧い盟友だ。1996年中国浙江工業大学を卒業、馬雲が最初に創業した、中国黄頁に参加。1999年のアリババ創業メンバー“十八羅漢”の1人で、最初のプログラマーといわれる。困難に直面したという判断で、創業メンバーを復帰させたのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
呉泳銘氏、支付宝(アリペイ)の技術総監や、ショッピングガイドアプリ“一淘”の責任者を務めた。また淘宝のモバイルアプリ化にも貢献。その後2015年、阿里健康の董事会主席となる。その一方、自らの投資ファンドを立ち上げた。これはアリババ本体の経営中枢からは、離れたことを意味する。ただしアリババ幹部たちとの関係はよく、人気は高かった。ファンドの運営も順調で100億元規模に成長、理想汽車、毎日優鮮、法大など、話題企業の資金調達に関与した。
 
今回、呼び戻され、重要な責任を引き受けた。9月中旬、呉泳銘氏は全従業員にメールを送り、2つの重点戦略を語った。顧客優先とAI駆動である。これに基付いて優先順位を再構築し、3つの業務に戦略投資する。1、テクノロジー主導のプラットフォームビジネス。2、AI主導のテクノロジービジネス。3、グローバルビジネスネットワークである。ここまでなら、誰でも言えることだが、そのために長期サイクルのビジネス視点による、インセンティブ分配メカニズムを確立するという。また85年~90年代以降の世代を登用、経営管理チームを刷新する。どうやら投資家視点の改革を志向している。投資家の呉泳銘氏が出戻り、張勇氏は投資家となり出ていった。なかなかいい投手交代かもしれない。
 
季氏十六の十
 
『孔子曰、君子有九思。視思明、聴思聡、色思温、貌思恭、言思忠、疑思問、忿思難、見得思義。』
 
孔子曰く、君子には9つの思いがある。見るときは明瞭に、聞くときは詳細に、表情は温和に、容姿は恭しく、言葉は誠実で、仕事は慎重、疑義があれば質問し、怒ったときはその後の困難を思い、利得を前にしたときは道義を考える。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国では大規模言語モデルの開発が盛んだ。使いようによっては君子になるかも知れないが、現体制にとって悪魔にならないことが第一優先になる。このリスクを排除する方が、モデルの構築そのものより難しいかもしれない。メディアはは大規模言語モデル産業について、盛んに報じている。
 
(サブストーリー)
 
9月中旬、北京人工智能サミットが開催された。この場で北京市海淀区はAI大規模言語モデル政策「中関村科学城通用人工智能創新引領発展実施方案」を発表した。産業規模は2300億元、100社の大企業を集め、初のAI公共プラットフォーム構築を目指す。
 
100社の大企業の他に、60社の専門的精鋭企業を集め、さらに5~10社のユニコーン企業を育成するという。「中関村人工智能大規模産業集聚区」の説明も行なった。このエリアには、浦道口人工智能工業団地、北京大学西門人工智能工業団地、中関村西区人工智能工業団地、清華科学技術園の4つの工業団地を建設、面積は67万平方メートルに及ぶ。
 
こうした研究開発のため試験区、開発区を構築するのは、改革・開放政策以来の伝統であり、特技である。成功、失敗、さまざまな経験の集積もある。
 
基調講演に立った、北京智源人工智能研究院の院長は、大規模言語モデルは、知的革命であり、インテリジェンスあらゆる場所に流通させることができる、と述べた。しかし、この自由さこそ政権が怒り、困難が降りかかる原因となりそうだ。大規模リスク排除モデルを同時に構築しなければならない。現政権の道義に従わないわけにはいけない
 

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