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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第149回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
陽貨十七の九~十
 
陽貨十七の九
 
『子曰、小子、何莫学夫詩。詩可以興、可以観、可以群、可以怨。邇之事父、遠之事君、多識於鳥獣草木之名。』
 
孔子曰く、「君たちはどうしてあの詩を学ばないのだ。詩は心を奮い立たせ、観察力をつけ、協調性を高め、批判精神を育む。近いところでは父に仕え、遠くでは君主に仕え、多くの鳥獣草木の名を覚えることができる。」
 
(現代中国的解釈)
 
米国の輸出規制は、中国半導体産業を奮い立たせ、多くの知見を得た。最新スマホ、ファーウエイMate60はその象徴となった。台湾TSMCでしか作れなかった7nmの半導体を、搭載したからだ。生産メーカーのSMICと、ファーウエイは、一躍ヒーロー扱いとなった
 
(サブストーリー)
 
次に米国制裁の影響が大きいのは、画像処理に欠かせないGPU(Graphics Processing Unit)である。米国は10月17日、AIチップの禁止措置を強化した。具体的には、演算能力300テラフロップス以上、密度1平方ミリ当り370ギガフロックス以上のチップが、輸出禁止となった。これによりAMDやIntelも影響を受けるが、何といってもNVIDIAの製品が最大のターゲットである。
 
ただし、中国メディアによれば、2018~19年、最初の輸出制限のときほどの深刻さはない、。業界やゲーマーが議論しているのは、ゲーミングPC向けグラフィックスカードRTX4090が、禁止されるかどうかくらいだという。
 
ChatGPTの人気を受けて、ハイエンドGPU市場は急拡大した。恩恵を受けたNVIDIAはその象徴だ。米国はこれらハイエンド製品の中国販売禁止を繰返し表明している。虚々実々の駆け引きが続いた後、今回の決定に至ったわけだが、それは予想以上のものではないという。“単純に”入手できなくなっただけで、さほど大きな変化ではない。要は制裁慣れが進んだのだ。
そんなことで悩むより、ローカライズすればいいのだ。中国メディアは、NVIDIAのハイエンドGPUは、代替は難しいが、不可能ではない、という意識付けを行なっている。さらにスマホの最新チップほど、一般消費者にとって重要なものではない、とも強調している。たしかにそうだが、ゲーミングPCだけでなく、データセンター、自動運転でも遅れを取ることになる。メディアも今回の決定は、中国のAI産業にとって、決して“無害”ではない、と認めている。
 
一方中国は、米国ハイテク企業の生産キャパの、3分の1を使用している。このバイイングパワーを有効活用すべきだ。例えば、NVIDIAが制裁回避用に、中国仕様の特別版GPUを作ってくれた。
 
中国メディアは、冷静を呼びかけ、きっとなんとかなる、というトーンを強調しているが、現状に対するあせりは隠しようがない。当面、米国という遠くにいる君主に従わざるを得ないのだろうか。
 
陽貨十七の十
 
『子謂伯魚曰、女為周南召南矣乎。人而不為周南召南、その猶正牆面而立也与。』
 
孔子が息子伯魚に向かって、「詩経の周南と召南を学んだか?人として周南と召南を学ばなければ、塀に面して立ち尽くしているようなものだ。
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国を前にして、立ち尽くしてばかりいるわけにはいかない。中国政府は、外資を歓迎するといいつつ、企業への締め付けを強めている。こういう相反する姿勢を見せて、相手に揺さぶりをかけるのは、お手のものである。現在、その標的は、あのフォックスコンだ。
 
(サブストーリー)
 
フォックスコン(富士康)は、周知の通り、世界最大の電子機器受託生産企業(EMS)だ。人材四流、管理三流、設備二流、顧客一流と自虐しているように、顧客リストはアップルを筆頭に、まぎれもない本物のオールスターメンバーである。
 
フォックスコンの中国経済への貢献は、比類ない。深圳から始まり、鄭州、太原、重慶など40都市に拠点を拡げ、従業員数は中国企業で3位の76万7000人。フォックスコンと中国は、共に成長エレベーターに乗り、世界の工場、中国の象徴にまで上った。
 
そのフォックスコンになぜか政府調査のメスが入った。グループ重点企業に税務調査が入るとともに、自然資源部門からも企業用地使用状況の調査を受けた。狙い打ちは明らかだ。
 
中国メディアによれば、フォックスコンと中国の共生関係は、どちらがより必要としているのか、という議論を巻き起こしているという。
 
フォックスコンの進出ルートは人件費の安い“低地”に沿っている。同社は低賃金に大きく依存している。2008年まで、同社の工場は東部の先進地帯に立地していた。リーマンショック後の不況により、内陸部への移転を進めていく。経済発展の遅れた内陸部の地方政府は、ここぞとばかり優遇措置でフォックスコン新工場の誘致を競った。その結果、2019年、鄭州市は、総輸出の81,5%をフォックスコンが占めた。
 
フォックスコンは、収益源として中国本土への依存を減らす、と公式に表明している。最大のOEM先、Appleの方針に追随するのはしかたない。すでにインド、チェンナイに6ライン、バンガロールに18ラインの工場を建設、カルナタカ州に、2つの部品工場建設を予定、インドにおけるiPhone生産比率は2023年の7%から2025年には25%になるという。
 
フォックスコンは、中国依存を減らす一方、中国政府は、開発と安全保障、勢力圏のバランス を取る必要がある、とも述べた。今回の調査権発動は、こうした発言がカンに触った可能性もある。しかりつけておくなら今だ、という判断だ。何やらアント・グループの上場中止(2020年11月)を思い起こさせる。政府はフォックスコンに、アリババと同じような恭順を求めている、これは間違いない。
 

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