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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第122回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の四十一~四十二
 
憲問十四の四十一
 
『子路宿於石門。晨門曰、奚自。子路曰、自孔氏。曰、是知其不可而為之者与。』
 
子路が石門で宿泊した。門番曰く、「どちらから?」子路曰く、「孔家からだ。」門番曰く、「不可能であることを知っていて、それをなさる方ですな。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババの大成功は、不可能なことにチャレンジした、という感じはしない。小売り、金融のデジタル改革で大きな足跡を残したのだが、国内の課題はいくらでもあり、目標を定めるのは簡単だった。すこしでもソリューションに成功すれば、莫大な対価を得られた。しかし、これからは、そう簡単ではないない。世界市場のライバルはあまりに強力だ。
 
(サブストーリー)
 
クラウドコンピューティングの阿里雲が、最大50%の大幅値下げを敢行する、と伝えられた。今年から、アリババ集団のトップの張勇が、阿里雲のトップを兼任する。不祥事やシェアの低下見かねて、直接統治に切り替えたのである。
 
クラウドビジネスの焦点、ネットワークなどのITインフラをサービスとして提供するIaaS(Infrastructure as a Service)の世界シェアは、アマゾン、マイクロソフトに次ぐ世界3位、国内と東アジアランキングでは首位だが、これが心もとない状況になりつつある。かつて50%以上あった伸び率は、四半期ベース(2022年10~12月期)で3%にまで低下した。成長は失速し、へたを打てばマイナスである。この間、テンセントやファーウェイ、3大電信キャリア(移動、電信、聯通)の追い上げを許した。
 
マイクロソフトは、OpenAIと組み合わせ、AIとクラウドコンピューティングの補完を目指し、巨額投資を行なっている。さらに米国から輸出規制を受ける可能性も浮上してきた。世界で戦う途は厳しく、国内は何としても譲れない。
 
そのため阿里雲は製品価格を15~50%値下げするのだが、プロジェクト性が高い商品のため、他社が追随するかどうかわからないという。というか元々がどんぶり勘定、売り手の言い値なのである。とすれば導入のハードルを下げた、という意味しかもたない。
 
ファーウェイ技術者を引き抜くなどの、これまでのような荒業による成長は見込めない。商品力で差別化できるかどうか。とにかく阿里雲は、グループのトップが直接率いていく。アリババグループ全体の命運がかかることになりそうだ。
 
憲問十四の四十二
 
『子撃磬於衛。有荷蕢而過孔氏之門者。曰、有心哉、撃磬乎。既而曰、鄙哉、硜硜乎。莫已知也、斯已而巳磬。深則厲、浅則掲、子曰、果哉。末之難磬。』
 
孔子が衛で楽器を引いていた。もっこを担いで孔家の門を通り過ぎる者がいた。曰く、「演奏に心がある。」またしばらくして、「卑しい。固くなり過ぎている。己を理解できなければ、やめるだけだ、深い川には袴を脱ぎ、浅いときは袴をからげるように。」孔子曰く、「思いに任せるということだな。これはそう難しいことではない。」
 
(現代中国的解釈)
 
IT巨頭は、自らの構想を、思いにまかせ実現しようとしている。そして互いの領域を浸食している。中国メディアは、「美団と抖音、互いの手牌で、利益を殺し合う。」という記事を掲載した。
 
(サブストーリー)
 
美団は、生活総合サービス企業で、アドバンテージは、中国最強のフードデリバリー部隊を持つところにある。その他、ネット通販、シェアサイクル、ライドシェア、口コミサイト、ホテルブッキングなど、幅広く展開している。抖音(海外名・TikTok)は、ショートビデオの投稿・シェアプラットフォームであり、直接競い合う関係性は、これまでなかった。
 
しかし、抖音も、ネット通販で大きな成功を収め、生活総合サービス化している。アドバンテージは、膨大なショートビデオユーザー数と、その閲覧時間の長さにある。その視聴。投稿の傾向分析から、商品紹介へ誘導する。それだけならまだよいが、美団の本丸、フードデリバリーにまで進出してきた。昨年6月、美団のライバル、アリババ系の餓了磨と提携した。さらに宅配大手、順豊、達達、閃達と提携、ライドシェア(配車アプリ)のT3出行とも提携した。そのうえ共同購入にまで進もうとしている。
 
美団は反撃を開始した。一部の都市だけだが、ショートビデオを導入した。一定の視聴回数、時間に達すると、インセンティブを提供する。これは共同購入通販アプリ「拼多多」の成功した手法で、一定の効果は期待できる。最近、美団の人材募集欄には、80ものショートビデオ関連職位が掲載された。間違いなく本気だ。
 
さらに抖音の〝全網最低価〟というフレーズに対し、〝特価団購〟を謳い、価格戦も受けて立つ。中国メディアはこの戦いを、利益を相殺するだけの不毛な戦い、と表現した。しかし、もう元のさやにはもどらない。
 
美団の創業者・王興(1979年生まれ)と抖音の張一鳴(1983年生まれ)は同じ福建省の出身で、出生地は10キロも離れていない。王興は、裕福な家庭に生まれ、清華大学を出て米国留学をしている。輝けるエリートである。張一鳴は、中産家庭に生まれ、天津の南開大学を出る。内向的な技術オタクだったという。かつて張一鳴は、王興の創業した飯否網というSNSの会社で、テクニカルパートナーとして働いた。その後、たもとを分かち、2人とも創業を重ねた。そして最終的に美団とバイトダンスで成功した。そして今度は対決モードへ入った。どうやら宿命のようである。しかし、2人とも成功した演奏者には間違いない。
 

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