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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第83回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の十~十二
 
先進十一の十
 
『顔淵死。門人欲厚葬之。子曰、不可。門人厚葬之。子曰、回也、視予猶父也。予不得視猶子也。非我也。夫二三子也。』
 
顔淵が亡くなった。門人達は手厚く葬ろうとした。孔子曰く「それはダメだ。」にもかかわらず、門人達は手厚く葬った。すると孔子は、「顔淵は、私を父のように慕っていた。しかし、私は、(自分の失った)子供と同じように、派手ではなくとも心のこもった葬式を、顔淵にしてやれなかった。それは私のせいではない。君たちのせいだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
日本企業は老舗が多く、ゴーイングコンサーン(将来にわたって存続するという前提)を、当たり前と思っている。中国で民間経済が勃興するのは、1992年の鄧小平「何巡講話」以降である。さらにIT企業の歴史は、テンセント(1998年)アリババ(1999年)バイドゥ(2000年)らの創業以降、まだ20年に過ぎない。しかし、この短期間の栄枯盛衰はすさまじい。
 
(サブストーリー)
 
かつてアリババのライバルだった「易趣網」が8月12日をもって運営を中止する、と発表した。1998年、上海で設立。2人の創業者は、共にハーバードビジネススクール出のエリートだった。1年後には、中国最大のネット通販に急成長。2000年、全国初の24時間サービスを実施。2002年、米国eBayと提携、eBay易趣と改名。2004年には、決済プラットフォームAnpayの運用を開始。2005年、登録ユーザー数1000万人を突破。しかし、この年、市場シェアは、アリババ67.3%、eBay易趣29.1%と、後発のアリババに逆転される。その後、差は開く一方だった。
 
アリババ大成功の要因は、最も安全なオンラインC2C取引市場を創出したことにある。それを支えたのが支付宝(Alipay)だ。支付宝は、そのまま2010年代のスマホ時代に適応、今では中国人の生活に欠かせないスーパーアプリだ。一方の易趣は、最後は、中小規模の越境Eコマースサイトになっていた。そして閉鎖を選択し、自らの手で葬ることにした。
 
先進十一の十一
 
『季路問事鬼神。子曰、未能事人、焉能事鬼。日敢問死、曰未知生、焉知死。』
 
子路が鬼神(先祖の霊)に仕えることについて質問した。孔子曰く、「まだ人に仕えることすらできないのに、どうして鬼神に仕えることができよう。」子路曰く、「敢えて死について質問します。」孔子曰く「まだ生がすらわからないのに、どうして死がわかるだろうか。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の民間企業に“生”を与えていたのは、中国語で“創投市場”と呼ぶベンチャーキャピタリストである。投資対象は、新興企業、急成長のハイテク企業、新しいビジネスモデルで業界革新を目指す企業である。ハイリスク、ハイリターンは言うまでもない、支配的地位や運営に参画しようとするのではなく、適切なタイミングでキャッシュアウトする。中国DXは、彼らの活躍に負うところが大きい。
 
(サブストーリー)
 
その創投市場が細ってきた。最初にコロナ禍の襲った2020年1~5月の融資件数と金額は、3492件、3985億元だった。翌2021年1~5月は5952件、5590億元、今年2022年1~5月は4227件、3043億元だった。今年激減したのは、上海のロックダウンなど、やはりコロナか禍の影響が大きい。新規融資シンジケートの組成案件数では昨年を上回っていたが、実行分は下回った。二の足を踏んだのだ。
 
業界別には、ハイテク製造業22%、医療16%、企業サービス13%で、これら上位3業種で51%と全体の過半を占める。これらの内部でも変化は大きい。工業用ロボット37%減、自動車用半導体39%減、これに対して半導体製造設備関連は92%増、SaaS関連は58%増、メタバース関連は223%増だった。仮想現実、5G、AI、医療映像、分子診断などはすでに成熟産業という位置付けのようだ。創投市場の今後は、不透明だが、案件数の多さからは、活力の健在がうかがえる。
 
先進十一の十二
 
『閔子鶱待側。誾誾如也。子路行行如也。冉有子貢侃侃如也。子楽。曰、若由也不得其死然。』
 
閔子鶱は、慎み深く、子路は堂々と、冉有と子貢は穏やかに孔子の側らに控えていた。孔子は楽しそうだ。曰く「子貢のような者は、畳の上では死ねないかもしれない。」
 
(現代中国的解釈)
 
取り巻きに囲まれて、人物評をのたまう。孔子はご機嫌の様子だ。現代中国でも、直接の政府批判は、控えても、人物談義は普通にある。先ごろ山東省最大都市の市長が解任された。この人物は、着任早々から評判が悪かった。主要道路の街路樹整備に乗り出したのだが、街路樹そのものも業者も、前任地から引っ張ってきたのである。前任地への置き土産が必要、と判断したのかもしれない。
 
(サブストーリー)
 
しかし、利権にまみれた地方政府も、人脈ネットによる駆動から、AI主導に変貌しつつある。それを強力にサポートしているのは、PATH(平安、アリババ、テンセント、ファーウエイ)を中心としたIT巨頭たちである。彼らと地方政府との提携合戦がヒートアップしている。
 
その中からイニシャルPの、中国最初の民間保険会社から、一大金融グループとなった「平安」を取上げたい。同社は“平安智慧城(平安スマートシティ)”を売り込んでいる。知恵、理性、効率、をコンセプトに、AI、ブロックチェーン、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーを駆使したスマートシティプラットフォームだ。これで行政、生活、金融、セキュリティ、交通、港湾、教育、医療、都市開発、環境保護、その他サービスなど、あらゆる公共インフラのデジタル化をサポートする。
 
公式サイトによれば、すでに全国152都市が導入している。中心は地元の広東省で、深圳市スマート環境保護プラットフォーム、I深圳アプリ(統一行政サービス)、深圳市スマートコールドチェーン、珠海市公共衛生応急管理プラットフォーム、などが稼働した。ただし、テンセント、ファーウェイも深圳本社の同郷であり、省内の競争は激しい。どれだけ他省で信頼を得るかにかかっている。例えばテンセントは、コロナ禍以来、湖北省と武漢市に食い込んだ。平安は、もっとも厳しい状況かもしれない。

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