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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第128回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の十~十一
 
衛霊公十五の十
 
『願淵問為邦。子曰、行夏之時、乗殷之輅、服周之冕、楽則韶舞、放鄭声、遠佞人。鄭声淫、佞人殆。』
 
願淵が国を治める方法を質問した。孔子曰く、「夏の暦を使い、殷の馬車に乗り、周の冠を被り、音楽は韶の舞曲、鄭の音楽を遠ざけ、媚びへつらう者を遠ざける。鄭の音楽は淫らで、媚びへつらう者は危険だ。」
 
(現代中国的解釈)
 
媚びへつらう者たちは、相手にその価値がなくなれば、誰も寄り付かない。そういう損得勘定だけの関係は危険だ。中国でそれを避ける関係は、やはり血縁だ。近くの他人より遠くの親戚なのである。
 
(サブストーリー)
 
Nvidiaの株価が大幅上昇、時価総額が一兆ドルを超えた。GPU(Graphics Processing Unit)で圧倒的存在となり、注文が殺到している。創業者CEO、黄仁勛にもスポットが当たった。
1963年、台湾台北市生まれ、1972年、家族とともに米国へ移住。オレゴン州立大学で学位、スタンフォード大学で修士を取得。AMD、LSI Logicで半導体の設計やSOCの営業などを経験し、1993年、30歳のときNvidiaを創業した。当時から仕事中毒として有名だったという。
 
そしてAMDのCEO、蘇姿豊(リサ・スー)とは親戚である。このスーの祖父と黄仁勛の母が兄妹である。台南市の出身でやはり3歳のときに一家でアメリカ移民した。
 
さらにもう2人台湾系を挙げる必要がある。TMSC創設者の張仲謀(モリス・チャン)。1931年、浙江省・寧波市生まれ。1949年、米国に渡り、マサチューセッツ工科大学で修士号を取得した。その後1958年、まだ売上1億ドルにすぎなかったテキサスインスツルメンツに入社、集積回路部門のゼネラルマネージャーから副社長にまで出世した。1985年、台湾からの招待を受け、台湾工業技術研究院の院長に就任した。そして1987年、TSMCを創業。
 
鴻海精密工業の創業者、郭台銘。1950年、台湾台北県板橋市生まれ。本籍は山西省。1971年、台湾中国海事専科学校卒業。1973年、10万ニュー台湾ドルを出資し、鴻海塑料(プラスチック)有限公司を設立。15人のスタートだった。1977年には利益が出始める。やがて習得した金型技術を元に、パソコンのコネクタや筐体などの生産を始める。目のつけどころは完璧だった。1985年、米国支社を設立「FOXCONN」ブランドを立ち上げた。やがて電子製造サービスECM(Electronic Contract Manufacturing)業態を確立、四流の人材、三流の経営者、二流の設備、一流は顧客だけ、と揶揄されつつ、一流の顧客に鍛えられ、急成長を遂げた。
 
ファウンドリー、EMS、GPUとそれぞれの分野で世界一を占めた台湾と台湾人が、半導体の世界を席捲している。もはや日本人の影はほとんどない。間抜けな経営者たちと、プライドばかり高く、ユーザーに寄り添う姿勢のなかったエンジニアたち。高慢な連中が市場から駆逐されるのは当然だった。かつて歯牙にもかけなかった、台湾島の地縁血縁が半導体の世界を治めている。
 
衛霊公十五の十一
 
『子曰、人無遠慮、必有近憂。』
 
孔子曰く、「人として深く考える思慮がなければ、必ず身近に憂いが起こる。」
 
(現代中国的解釈)
 
張一鳴の創業した字節跳動(バイトダンス)は、この9年間、数百社の上る企業に投資した。2017年、リップシンク(口ぱく)のミュージックビデオアプリ、musical.lyの買収は、そのハイライトである。以降業績は急上昇し、IT巨頭の一角を占めるまでになった。そしてmusical.lyの創業者は、副社長として処遇されている。一方、張一鳴はCEOを辞任、仮想現実、生命科学、コンピューティングなどの新興技術分野を育成する。自分は、経営実務から離れ、本来の技術オタクに戻り、やりたいことをやるのだ。深く考え、思慮した結果であろう。
 
(サブストーリー)
 
バイトダンスはこのような投資活動により、外部リソースを自社ビジネスへ移植してきた。そして、投資したセグメントの優位性を、自社の製品環境へ統合していった。メディアからは。独自の進化システムを構築した、と評価されている。
 
最初の投資活動は、コンテンツ不足を補うためだった。musical.ly買収の他にもインドのDailyhunt、米国のFlipagram、東南アジアのApp Vshowなどのエンタメプラットフォームに投資した。
 
その後、投資活動はゲーム、医療健康、教育、広告など各方面へ及ぶ。ゲーム部門では、2年間で10社に投資した。そのうち6社は有力な開発会社だ。抖音(TikTok)アプリの莫大なトラフィックを生かすことができ、テンセント、ネットイースのゲーム2強を脅かす存在になりつつある。
 
医療健康部門では、オンラインの科学百科辞典からインターネット医療、オフラインの内科、外科、婦人科、腫瘍の治療施設へと投資した。2020年、“大健康”部門を設立、トップには、呉海峰氏を据えた。かつて百度の副社長を務め、その後、抖音が買収する医療ベンチャーを創業した人物である。
 
バイトダンスにとって、被買収企業の経営者を、そのまま重職で起用するのは、企業文化になっている。深く考え、思慮し、独自の進化システムに昇華させた結果かも知れない。
 
かつてインターネット放送プラットフォームbilibiliの陳睿会長は、ライオンキングの一節、
“太陽が照らず場所はすべて我が領土だ”を引用し、張一鳴の野心の大きさを表現した。抖音はどこまで大きくなるのだろうか。
 
 

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