「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第167回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
子張十九の八~九
子張十九の八
『子夏曰、小人之過也、必文。』
小人が過ちを犯すと、必ず取り繕う。
(現代中国的解釈)
中国政府の半導体産業への補助金は1400億元(2兆9000億円)以上に上った。大型破産した紫光集団や、知らぬ間に消えたスタートアップ企業など、過ちの方が多かっただろう。補助金には、必ず詐欺師が群がる。しかし、この点では国際社会も日本も同列である。経産省は、エルピーダなど税金を捨てた実績を持つ。ラピダスの将来もまったく不透明だ。
そんな中、中国では半導体企業の大型買収が伝えられた。「長電科技」という企業が、「晟碟半導体」を全額現金払いで購入した。
(サブストーリー)
長電科技(JCET)はOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)、半導体の後加工、パッケージングやテストで中国首位、世界ではASE(台湾)Amkor(米国)につぐ3位の有力企業である。ホームページには、「世界有数の集積回路製造および技術サービスプロバイダー」とある。中国、韓国、シンガポールに計6つの製造拠点、20カ国以上に営業拠点を持つ。ファブレスの半導体設計会社、例えばNVIDIAや、半導体製造の前工程を担うファンドリー、TSMC(台湾)サムスン電子(韓国)グローバルファウンドリー(米国)ばかりにに陽が当たっているが、後工程も重要さで劣らない。そしてやはり日本企業の名は、上位にない。
長電科技の買収した「晟碟半導体」は、2006年、上海に設立された米国ウエスタンデジタル系の工場で、NANDフラッシュメモリー、SD、マイクロSDなどの後工程やテストを行っている。工場は高度に自動化され、品質、オペレーション、持続可能性に関して、数々の賞を受賞し、世界の先進的工場、Lighthouse(灯台工場)に選定された。
長電科技は買収、合併を通じて拡大してきた。今回もその路線の踏襲だ。設計、前工程ほど目立たない後工程だが、このカテゴリーでは過ちを起こさない、ということかも知れない。取り繕っただけ、というわけではなさそうだ。
子張十九の九
『子夏曰、君子有三変。望之儼然。則之也温。聴其言也厲。』
子夏曰く、君子には3つの異なる姿がある。遠くからみると厳かである。近くに寄れば穏やかである。言葉を聞けば厳しい。
(現代中国的解釈)
BYDの創業者、王伝福は、ファーウェイの任正非とならび、今最も注目を集める経営者だ。2007年8月、BYDが初めての中高級セダン「F6」を発表にあたり、「2015年に中国ナンバーワンに、2025年には、世界一となる。」当時は、空虚な妄言のように見做されたが、EV車に限れば2024年中に実現してしまう勢いだ。2024年4月には、「自動運転はナンセンス」という刺激的発言でも話題となった。その言葉は厳しい。
(サブストーリー)
中国メディアに、「また外資撤退?王伝福が刀を振るい、日産の大動脈を絶つ。」という記事が掲載された。BYDがEV車を大幅値下げする。内燃エンジン車の価格とほぼ変わらなくなる。内燃エンジン車主体の外資合弁は、大きな影響を受ける。例えば東風日産は、撤退に追い込まれるかも知れない、といった内容だ。
春節開け早々、BYDは爆弾を投下した。「秦プラス」、「駆逐艦05」の2車種を7.98万元~と格安にした。キャッチコピーは"電比油低"とEV車の安さを強調している。昨年から、電気とガソリンは同価格時代に入った、とさかんに発信していたが、今回は、ガソリンよりさらに安い価格をアピールした。内燃エンジン車中心の従来型外資合弁にとっては、確かに厳しい状況だが、最も重傷を負ったのは、東風日産という。
東風日産は、国有大手、東風汽車の持つ、日産、プジョーシトロエン(現ステランティス)、ホンダ、3つの外資合弁企業の1つである。長年、シルフィ、エクストレイル、ティアナ、の3モデルに依存してきた。そのうちエクストレイルは、2021年7月発売の4代目に搭載した3気筒ターボエンジンが不評。たとえ4気筒に戻したとしてもユーザーの気持ちはもどらないだろう。日系セダン三銃士と呼ばれたティアナも、アコード、カムリとの差は開くばかり。まだ一見の価値があるのはシルフィのみ。
シルフィは2020~2022年、3年連続でセダン販売トップとなった。東風日産の販売台数の半分を占め、2024年1月には62.4%にも達している。しかし2023年シルフィーの販売台数は36万8761万台にとどまり、BYD秦の43万4213台にトップを譲った。BYDはその秦を値下げし、シルフィーをつぶそうとしている。
中国市場における日産の立ち位置は、日本市場とは大きくことなる。2003年、東風日産の設立とともに販売は順調に伸び、2015年、100万台を突破、2018年には156万4000台のピークに達し、トヨタ、ホンダを抜き、日系のトップに立った。その後もトヨタ、ホンダ日産の3者鼎立が続いたが、日産が滑り落ちた格好だ。2023年は、トヨタ190万台、前年比1.7%減、ホンダ123万台、10.1%減、日産79万3800台、24.1%減だった。
スターの名前を押し出し、日系をたたき、ページビューを稼ぐ、中国ネットメディアの常套手段だが、確かに日産にも問題がある。EV車、内燃エンジン車という以前に、ラインナップに魅力がなくなっている。1月は春節前の大幅値引きセールで乗り切ったが、今後は厳しい。ユーザーの言葉も厳しい。
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