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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第175回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の二十四~二十五
 
子張十九の二十四
 
『叔孫武叔毀仲尼。子貢曰、無以為也。仲尼不可毀也。他人之賢者丘陵也。猶可踰也。仲尼如日月也。無得而踰焉。人雖欲自絶、其何傷於日月乎。多見其不知量也。』
 
叔孫武叔が孔子を非難した。子貢曰く、「そんなことはおやめなさい。先生を非難できるはずはありません。他の賢者は丘陵のようなものです。まだ超えることはできるでしょう。しかし先生は、太陽や月のようなものです。どうやっても超えることはできません。人が絶交しようとしても、太陽や月に何のさしさわりがありましょう。身の程知らずをさらすだけです。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国は自力でSoraと戦える動画生成AIモデルを開発しようとしている。今ならまだSolaを超えることができるかも知れない。そのうちどうやっても超えることができなくなるかも知れない。開発は急を要する。ハイテク分野で米国の後塵を拝すのは、もうがまんならない。
 
(サブストーリー)
 
4月下旬、AIスタートアップ企業「生数科技」と清華大学は、動画生成モデル「Vidu」を発表した。継続時間は16秒、一貫性の高い、ダイナミックな映像を生成する。Soraは1分だ。
 
しかし、動画生成モデルの分野では、まだ先行者利益の独占まで至っていない。後発者がアルゴリズムを十分理解し、エンジニアリング経験を積めばSoraに追いつくことは可能、という認識だ。
 
Viduの開発チームによれば、これまで研究してきた、拡散モデルとディープラーニングの技術的ルートは、たまたまSoraのそれと似ていた。そのためチームはこのルートで大規模な訓練ができた。2023年3月には、世界初の大規模言語モデルUniDiffuserをオープンソース化している。その後、Soraの出現により、ただちに問題に取組み、そして2カ月後にはViduが姿を表した。この間、課題は多かったものの、画像やショートビデオにおける過去の経験が役立ち、コンピューティング能力は40倍となった。今年1月には、4秒動画の生成に成功、3月末には8秒を突破、そして現時点で16秒である。
 
生数科技は2023年3月に設立されたばかり。同年6月、アント・グループが主導して、百度や投資機構などから1億元近いエンジェルラウンド融資が実行された。その結果、企業価値は早くも1億ドルを突破した。
 
生数科技によれば、動画生成モデルのブレークスルーには、多次元的かつ横断的な包括的プロセスであり、技術と産業の密な統合を必要とする。そのため今回の発表に際し、Viduビッグモデル、パートナープログラム、を立ち上げ、産業チェーンの川上から川下までの、あらゆる企業や研究機関に参加を呼びかけている。
 
現時点でのSolaとの距離はよくわからないが、とにかく、Solaに離されないよう、あわよくばブレークスルーを起こして追い抜こう、と頑張っていることはまちがいなさそうだ。アドバルーンだけで終わるか、実体が伴うのか、身の程知らずかも知れないが、とりあえず、器は作ったということだろう。
 
子張十九の二十五
 
『陳子禽謂子貢曰、子為恭也。仲尼豈賢於子乎。子貢曰、君子一言以為知。言不可不慎也。夫子之不可及也。猶天之不可階而升也。夫子之得邦家者、所謂立之斯立、道之斯行、綏之斯莱、動之斯和。其生也栄、其死也哀。如之何、其可及也。』
 
陳子禽が子貢に向かって曰く、「先生は謙遜されています。孔子がどうして先生よりまさっているといえるのでしょう。子貢曰く、「君子は一言で賢者ともされるし、また一言で愚者ともされる。言葉は慎まなければならない。先生(孔子)が私にとっておよびもつかない方であるのは、天がはしごをかけて登れないようなものです。先生が国を動かす地位を得られたなら、民は、立たせれば立ち、導けば行き、安心されば来、動かせば調和するでしょう。先生の生前は栄え、死後は哀しむ。これはどうすることもできません。」
 
(現代中国的解釈)
 
2023年、中国の自動車輸出は491万台となり、日本を抜き、世界一を達成した。今年は650万台を見込む。輸出産業の花形として、国の経済とイメージを表す地位を得た。昨年の輸出を分析してみよう。
 
(サブストーリー)
 
491万台のうち、内燃エンジン車370万7000台、新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)は120万3000台、構成比24%で、これは国内シェアよりかなり低い。輸出相手国別、台数と構成比は下記、
 
1位 ロシア90万9000台 19%、
2位 メキシコ41万5100台 8%、
3位 ベルギー 21万7400台 4%、
4位 オーストラリア 21万4600台 4%、
5位 英 国 21万3800台 4%
6位 サウジアラビア 21万3600台 4%
7位 フィリピン 17万2500台 4%
8位 タ イ 17万600台 3%
9位 アラブ首長国連邦 16万台 3%
10位 スペイン 13万8700台 3%
 
メーカー別ランキング
 
1位 上海汽車 109万9000台
2位 奇瑞汽車 92万5000台
3位 吉利汽車 40万8000台
4位 長安汽車 35万」8000台
5位 テスラ  35万4000台
6位 長城汽車 31万6000台
7位 BYD   25万2000台
8位 東風汽車 23万1000台
9位 北京汽車 19万台
10位 江准汽車 17万台
 
上海汽車は英国のMG(Morris Garages)ブランド車を生産し、欧州へ輸出している。これがドル箱で、輸出全体の60%以上を占めた。2位の奇瑞汽車は、輸出比率が50%に近いという、中国では稀有な自動車会社だ。国産車を初めて輸出した会社であり、中近東に強味を持つ。3位以下のメンバーも国有企業が多く、"造車新勢力"各社は1社も出てこない。EV車の輸出が大きく伸びたわけではなかった。今年は過剰生産となったEV車を、海外へ安売りするだろう、と推測されている。これに先進国は高関税をかける見込みだ。どうすることもできなくなるかもしれない。
 

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