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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第103回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の十五~十七
 
子路十三の十五
 
『定公問、一言而可以興邦有語。孔子対曰、言不可以若是、其幾也。人之言曰、為君難。為臣不易。如知為君之難、不幾乎一言而興邦乎。曰、一言而可喪邦有諸。孔子対曰、言不可以若是、其幾也。人之言曰、予無楽乎為君。唯其言而楽莫予違也。不亦善乎。如不善而莫之違也、不幾乎一言而喪邦乎。』
 
定公が問う。「一言の言葉で、国を興隆させることはできるだろうか。」孔子曰く、「言葉はそのようなものではありませんが、それに近いものはあります。ある人が言うには、『君主であることは難しく、臣下であることも易しくない。』もし君主であることの難しさを知れば、一言で国を興隆するということに近いのではないでしょうか。」定公が問う。「一言で国を滅ぼすことがあるだろうか。孔子曰く、「言葉はそのようなものではありませんが、それに近いものはあります。ある人が言うには『私は君主を楽しむことはない。ただ言葉によって私に反対するものがいないのを楽しむ。』もし、それがよいことで、反対者がいなければ、すばらしい。もし。それが悪いことなのに、反対者がいないとすれば、一言で国を滅ぼす、というのに近いのではないでしょうか。」
 
(現代中国的解釈)
 
創業経営者の言葉は絶対だ。経営再建中といえども、何ら変わらない。例えば恒星集団の許家印である。社内に反対者は存在しない。自動車製造へ進出したときもそうだった。
 
(サブストーリー)
 
許家印は、2017年以降、世界中の自動車関連企業を訪問し、協力者作りに精を出す。その結果、買収戦略を中心に据えることにした。2019年1月、NEVS(ナショナル。エレクトリック・ビークル・スウェーデンAB)の株式を51%取得、本格的に新エネルギー車産業へ進出した。そして目標を2035年、年産500万台、世界最強の新エネルギー車企業集団とした。
 
翌2020年8月、恒大汽車は、SUV、セダンなど6車種を発表した。株式市場は過剰に反応し、恒大汽車の株価は6倍に上昇した。
 
しかし、2021年が過ぎても、どれも発売されることはなかった。そこで2022年3月、許可印は社内会議に於いて、「日夜奮戦、今後3ヵ月懸命に努力し、6月22日までに、恒馳5をの量産を実現せよ。」と厳命した。しかし、それは10月末に延期され、ようやく100台の納車が実現した。数々不具合が報告された。
 
さらに、本社の解体、給料未払い、自宅待機などの噂が飛び回っている。自動車事業は、グループの救世主どころか、致命傷になりそうだ。
 
子路十三の十六
 
『葉公問政。子曰、近者説、達者来。』
 
葉公が政治について問うた。孔子曰く、「近くの者が喜び、遠くの者がやってくる、そういう政治がよい。」
 
(現代中国的解釈)
 
遠くから外資がやってくる。それを利用して中国経済は大きく成長した。そして投資も、貿易も米中は、依然として最大のパートナーだ。米中冷戦は、半導体を除けば、形式の上だけのことである。
 
(サブストーリー)
 
半導体は焦点である。2020年以降、反壟断法(独占禁止法)のネット企業への適用が強化され、IT巨頭は、見せしめに巨額罰金を課された。それ以来、彼らはハードコア技術の取得をペースアップする。たとえば半導体の自社開発だ。アリババは2022年の雲栖大会(開発者大会)において、自社開発CPU「倚天710」の大規模応用を図る、と発表した。今後、クラウドコンピューティング子会社「阿里雲」のコンピューティングパワーの20%は、自社開発のCPUでまかなう。
 
倚天710は、すでに阿里雲のデータセンターで展開し、アリババと顧客ネット企業にサービスを提供している。単位演算の消費電力を60%削減し、コストパフォーマンスは30%上昇した。中国初の大規模アプリケーション向け、自主開発CPUという。ただしARMアーキテクチャーのライセンス範囲内にとどまる、現状の技術を組み合わせただけとも言える。つまりこの件のニュースバリューとは、アリババがやった、ということに尽きる。
 
子路十三の十七
 
『子夏為莒父宰、問政。子曰、無欲速。無見小利。翌速則不達。見小利。則大事不成。』
 
子夏が莒父の長官となった。そこで孔子に政治について問うた。「拙速に結果を求めるな。小利を眼中に入れるな。急いで結果を出そうとすると、達成できない。小利にこだわると大事は遂げられない。
 
(現代中国的解釈)
 
2010年代のIT巨頭は、拙速に結果を求めなくても、結果はついてきた。有用なプラットフォームには、どんどんユーザーが集まった。一方、粘り強く、大事を遂げようとしたプロジェクトもある。たとえば国産旅客機C919の開発である。
 
(サブストーリー)
 
三菱重工業のスペースジェットMSJは、コロナ禍が決定打となり、開発が“凍結”された。これに対し、中国の開発主体、中国商用飛機有限責任公司(COMAC)は、開発を続けた。すでに国内で運用を開始していMJSのライバルARJ21(72~99席)と中型のC919(190席)である。何しろA(Airbus) B (Boing) にC (Comac)を加え、ABCの鼎立を目指しているのだ。国威発揚の大切なツールである。
 
中大型旅客機の開発は、2007年、国策として決定した。翌2008年、上海でCOMACを設立、2009年、C919の開発に取り掛かった。2014年から機体各パーツの生産がスタート。2017年、初試験飛行に成功。2018年、2時間の長距離飛行に成功。2020年には、内蒙古の高山飛行テストをクリア。2022年9月末、中国民間航空局から型式証明を取得。
 
こう並べただけでは何もわからないが、べた遅れに遅れた結果である。ただし米連邦航空局(FAA)と欧州航空安全機関(EASA)の型式証明取得のメドは立っていない。必要な耐空証明(airworthiness certificate)が取れていないからで、国際線に登場することは、当面なさそうだ。
 
とはいえ、中国国内では、すでに12月上旬、中国東方航空に引き渡された。2023年春の定期運航開始を目指してという。次は、中国国際航空に納入され、その他リース会社や中国系航空会社による受注残は800機を超える。国有企業連合の力は強大だ。外国人として見守る他ない。

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