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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第118回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の二十九~三十一
 
憲問十四の二十九
 
『子曰、君子恥其言之過其行。』
 
君子は、その行ないが言葉より大げさなのを恥じる。
 
(現代中国的解釈)
 
アリババ創業者の馬雲が帰国した。日本やタイでの目撃証言が続き、もう帰ってこないのでは、などの憶測が流れていたため、大きなニュースとなっている。さすがの人気者である。それともう一つ、中国ではあまり大げさな扱いではないが、機構改革のニュースもあった。その内容は、発表以上に、大げさな内容にみえる。
 
(サブストーリー)
 
アリババグループの董事会主席兼主席執行官(会長兼CEO)の張勇は、全従業員へ「唯有自我変革、才能開創未来」と題する手紙を送った。その内容はというと、ズバリ会社分割であった。
 
①阿里雲智能、②淘宝天猫、③本地生活、④菜鳥、⑤国際数字(デジタル)⑥大文化娯楽の6つに事業を分社化し、それぞれが董事会を持ち、その指導下のCEOが経営責任を負う。張勇は、持ち株会社と①の阿里雲智能のCEOを兼任する。②~⑥のCEOもすべて発表された。
 
分社化の目的は、組織の機動性を高め、意思決定を短絡化し、対応を迅速に行なうためである。これはパナソニックの事業部制採用以来、普遍的な経営課題だ。しかし、今のパナソニックを見るにつけ、成功するかどうかは藪の中だ。しかしアリババの分社には、これまでと違うプラスアルファがありそうだ。
 
中国メディアは、アリババの6分社のうち、4社は、香港上場の可能性がある、と報じた。これが本当なら、強力な資金調達の武器を持っている。また、後方部門は、各社共通化し、持ち株会社が管理する。アリババは、最新ブロックチェーン技術を始め、強力なオンラインオフィスツールを自前で持ち、運用実績もある。張勇もこうした後方部門チームの働きを評価、機構改革の基礎は固まっていると判断したという。これまでとは違う、新次元の分社化アプローチとなるかも知れない。
 
憲問十四の三十
 
『子曰、君子道者三。我無能焉。仁者不憂。知者不惑。勇者不懼。子貢曰、夫子自道也。』
 
孔子曰く、「君子には3つの道がある。しかし私にできることはない。仁者は心配しない。知者は迷わない。勇者は恐れない。」子貢曰く、「先生は、ご自分のことを言ったのだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
新興EV車メーカーが、危機に陥っている。作れば作るほど赤字が膨らむ。この状況に、心配も迷いも、怖れもないのだろうか。蔚来汽車(Nio)の場合を見ていこう。
 
(サブストーリー)
 
蔚来汽車は2014年、李斌によって設立された。 彼は、それ以前にも「北京科文書信息技術」や「易車網」という総合自動車サービスのサイト等を立ち上げた、有名な起業家である。中でも2000年に創業した易車は、2010年にニューヨーク市場へ上場を果たしている。
 
その成功を基手に、蔚来汽車を立ち上げた。こちらも2018年ニューヨーク市場上場へ導いている。高級路線で押している。スポーツセダン蔚来ETS、32万8000元~、同じく蔚来ET7、37万8000元~、同じく蔚来EC6、36万8000元~、SUV蔚来ES6、35万8000元、同じく蔚来ES7、46万8000元、いずれも日本円600万円~1000万円である。
 
2022年の売上は、492億6900万元、前年比36.3%増、総販売台数12万2500台、11四半期連続でプラス成長を達成している。にも関わらず、損失も拡大中だ。2022年通年の欠損は144億3700万元、前年比259.4%増。大まかな計算では、1台販売するごとに、11万7000元を失っていく。新エネルギー車補助金の廃止、旧車の処分、第二世代プラットフォームによる工場立上げなどが影響しているという。しかし赤字はいずれ止めてみせる、と思っている。
 
テスラも年産50万台をクリアするまで黒字化しなかった。蔚来はまだその4分の1に過ぎない。充電ステーションの建設や、欧州進出など、多額の先行投資も行なっている。それらはいつの日にか芽吹く。李斌には、心配も迷いも、怖れもないようである。
 
憲問十四の三十一
 
『子貢方人。子曰、賜也賢乎哉。不我則不暇。』
 
子貢が人物について評した。孔子曰く、「子貢は賢いな。私にはそんなことをしているヒマはない。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国は、スピード勝負になっている。オフライン店舗へは出かけなくなった。総合スーパー、カルフールは2021年12月末の205店舗から、2022年9月には151店舗となった。9ヵ月で4分に1を閉店した。コロナの後遺症、と消費市場の変化は大きい。しかし、まだ何とかなる可能性は残っているという。
 
(サブストーリー)
 
カルフールより小型の食品スーパーでは、改善の兆しが見えてきた。山東省の家家悦(店名、SPAR)では、デリバリーサービスが80%伸び、黒字転換となりそうだ。もっと規模の大きい永輝超市でも、同じく21%増加し、コロナで被った赤字が縮小している。
 
利益改善のカギとなるのは、料理から始まって、今や何でも配達する、美団、餓了蘑、京東到家、などのデリバリーサービスだ。トップブランド美団の年間即配数は、177億、前年比14%増だった。有名ブランドが美団へ次々と利用している。無印良品2022年4月からデリバリー事業を開始、6月までに中国店舗の80%が美団の即配を利用した。10年前、日用品、耐久消費財ブランドの戦略は、Eコマースに参入することだった。無印良品も2014年に、アリババの天猫に参加した。10年後、彼らは、こぞってフードデリバリープラットフォームに殺到している。どこにいても迅速に商品が配達される。オンライン、オフライン、本当にあいまいとなってきた。
 

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